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236.
その日の夕方に、営業さんから電話が入った。
内容は今週の木曜日に取引先に行くから一緒に来てほしいと言う話。もちろん大丈夫ですと元気よく返事をして、俺の予定を書いてるところには木曜午後出張と書き出した。
その日も適度に残業 をして家に帰った。
「ただいまぁ」
「おかえり」
玄関に聞こえる小さな声。
廊下を抜けてリビングに入り、荷物をズサっと置くと迷わずおにーさんの隣に座る。座ると言うよりおにーさんに乗ると言う方が正しい勢いだったけど。
「っ、お前なあ」
「ふぁあ、落ち着く」
「ったく」
衝撃がそれなりにあったみたいだけど、それもため息ひとつで終わらせてくれるあったかい人。
「穂高さぁん」
「なんだ?」
「木曜日スーツ」
「分かった」
自分で用意しろよって言われるかもしれないけど、俺のスーツもおにーさんの管理下だ。俺のスーツとしては幸せじゃないだろうか。着た後は必要に応じてきちんとクリーニングに出して貰え、綺麗に直してもらえる。収納されているところも湿度が篭らないように気を使ってもらえている。俺が持っていた頃はとりあえず吊るしているだけでそんな綺麗に直してなかった。
「ネクタイは?」
「ふえ?」
「今クールビズだろ」
「やったあ!ノータイで行ける?」
「俺は社内ではノータイ。先方に行く時は直前でネクタイ締めてるけど」
「………俺は結べないもん」
「練習、だな?」
むむむっ。意地悪っ!
その顔は出来ないって分かってるじゃん。
どぉせ上手くて結べないんだけどさ。
おにーさんの前で結ぶと信じられない欲求が出てくるから嫌なんだよ。
俺はおにーさんがしたいことを受け入れるだけで、決してそういう被虐的嗜好があるわけではない(と思いたい)。
「誠がネクタイしてんのって好きだよ」
「引っ張れるから?カッコいいから?」
「引っ張れるから」
「ほらあっ!違う!好きの意味が違うよ!」
うわぁあんと泣き真似をしてみるけど、おにーさんから退いたりはしないから本気じゃないことはバレバレ。
別にそれをされるのは良いんだよ。俺がしたいわけじゃないってことさえ分かっていてもらえたらそれで良いんだ。
「ほんとお前って面白い」
「うん?」
「フェラよりイラマの方が好きとかお前も相当だよ」
「………」
「別に良いよ。加減はしてやる」
フェラよりイラマチオの方が好き。
そう言われてもあんまり否定できない自分。
おにーさんは俺を酷く扱ったとしても、興奮に塗れた、満たされた顔して俺を見てるからなんとなく嬉しい。ゾクゾクする。
「するのはいいけど、最後までしてね」
「満たされない?」
ふるふると首を振る。
あれはすごく満たされる。酷いことをされてるはずなのに、それ以上にすっごく満たされるんだけど。
すっかりおにーさんとエッチすることに慣れた俺にとっては少し酷だ。やっぱり中途半端よりも最後までした方がもっともっと満たされる。
それこそ、頭の中身が溶けたんじゃないかと思うほどに満足する。
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