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239.
無事に出張と終わり、世間的にはお盆休みに入った。
こんな時は持ち込まれる仕事もぐっと減るから、1人でみんなの研究のお世話をしなきゃいけないとしてもいつもよりは早く帰って来ていた。
「誠って日曜は休みだよな?」
「うん、休みだよ」
「俺んち来る?」
「ふえ?」
「父さんも母さんも居るから」
「す、すっ」
「す?」
「スーツ着ていく!?」
「バカ。そのまんまでいい」
「ふえ?俺今パジャマだよ!」
「アホか」
そのままって、今のままじゃパジャマだよ!
おにーさんが買ってくれた夏物の涼しくて生地の柔らかいパジャマ!こんなんじゃ行けないよと言うと普段着でいいんだよと言われた。
なんだ、そういうことかとホッとしたらお前ほんとバカだなと呆れた目を向けられた。
「そんな気にしなくていいだろ」
「うん?」
「母さんも父さんも穂積はよくて俺はダメとかんなこと言うような人じゃねえよ」
「性別のことはそうだと思うよ」
「?」
「けど、ご両親から見て穂高さんにふさわしいかって言うのは性別に関係なく大事なことだと思うんだ」
「ほんとバカなのか頭いいのか分かんねえな」
そうかな?普通だと思うけどな。
性別とか性癖を受け入れたご両親だからこそ、人柄重視じゃないかなぁと思う。世間的にあまり受け入れられることじゃないからこそ、おにーさんをちゃんと幸せにしてくれる人って言うのがご両親にとってはすごく大事だと思うんだけどな。
「だからこそスーツ!」
「それなら尚更普段着でいいだろ」
「なんで!?」
「俺はお前が泣いてバカ丸出しでぐうたら転がってんのがいいんだよ」
うむむ。
いやいや、泣くのは置いておいて普通ぐうたら転がってるだけのやつなんてイライラするはずなんだよ?自分が忙しくてたまんない時に何もせず転がってろなんて言うおにーさんが相当変わってるんだよ?
っていうかそれじゃ俺がぐうたらでダメなやつってだけじゃん!もぉちょっとくらいいいところだってあると思う!
「いいところ、ねえ」
「ないの!?」
「バカなところ」
「褒めてないぃぃっ」
うわぁんと泣き真似して顔を突っ伏して考えてみる。
俺のいいところって、なんだろ。
うーん………。
「よし!」
「どうした?」
「俺のいいところってさあ」
「バカなところ」
「それは置いといて!深く気にせずとりあえず前向きなことくらいだから!当たって砕けたらゆで卵の乗ったステーキ丼作ってね」
「ゆで卵いんの?」
「大事!」
人並みに常識的な格好をして、普通にしてよう。
それで何かあったらその時に考えよう。
対処療法とも言えそうな、やってみるまでわかんない精神だけど人が関わることなんだから俺がどれほど1人でヤキモキしても一緒だ。
「こいつはダメだ!って言われて俺が落ち込んでたら慰めてね」
「はいはい」
返事はしてくれるけど、その顔はお前でも落ち込むの?っ感じだ。俺だって落ち込むよ。あんまり長く続かないだけ。切り替えが早いと言えば聞こえがいいからそういうことにしている。
そしてもう一つはっと気づく。
「指輪は!?」
「連絡来たから取りに行ってきたけど」
「見せて見せて!付けたげる!」
「はいはい」
と言うか言ってくれたら俺も一緒に行ったのに!
あ、そっか俺仕事してたのか。
おにーさんが持ってきてくれた箱はシンプルで、それをパカッと開けると白くてふかふかそうなクッションの真ん中に刺さる銀色の輪っか。
俺のより明らかにおっきい。
そして内側には同じように赤い石。
「これもルビー?」
「それはガーネット。誠のよりちょっと暗いだろ」
言われて見比べてみて確かにと納得する。
そして見比べるとやっぱりおにーさんのものの方が大きかった。いつも俺を包んでくれる大きな手だから、当然なのかも知れない。
おにーさんの指輪をそっと付けてあげたけどものっすごく恥ずかしくて、愛おしかった。
そんな俺を見て可愛いなんて言ってくる人がすっごく大事で大好きで、俺はこの人のそばにずっと居たいと深く感じた。
その夜から俺は、おにーさんの家に持っていく手土産を調べ始めたのだった。少しでも良い印象を持って欲しいと、俺なりに必死に考えたのだった。
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