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「水羊羹と流し羊羹ください!あとこれと……こっちは自宅用で羊羹は贈り物です」 「かしこまりました」 少々お待ちくださいと消えていく定員さんを見送って、ホッと息を吐く。店内に簡単なイートインスペースと無料の飲み物コーナーまで設置されたここはちょっと有名な和菓子屋さん。 夏らしく涼しげで美味しそうなお土産にしようとここに来た。 「誠」 「はぁい」 「自宅用多くね?」 「一緒に食べようね。ついでだし食べてみたかったんだあ」 「まあいいけど。母さんが和菓子好きって言ったっけ?」 「え、そうなの?良かった」 「偶然か」 「偶然!洋菓子ってなるとアイスとか?ゼリーなら和菓子屋さんのものの方が落ち着いて見えるから大人の人には喜ばれるかなと思ったりして」 それに、アイスは俺の母さんは好まない。歯ぁキンキンなって痛いやん!って嫌がって食べないからアイスは却下。それ以外ってなるとゼリーとかプリンだけど、穂高さんのご両親へのお土産にそれってなんか違う気がしてこのチョイスになった。 「誠にしてはまとも」 「ちゃんと考えたもん」 「なら俺は母さんに美味しいお茶でも買っていくか」 「ああっ!」 「なんだ?」 「コーヒーが好きなお家なんだからやっぱり洋菓子のほうが良かったかな」 「だから和菓子好きだって」 「コーヒーと食べれるかな」 「そこはお茶がよくね?」 ガーンとショックを受ける俺。 おにーさんは和菓子屋さんの隣にあるお茶屋さんに入っていって、落ち込む俺を慰めてくれる人は居なくなってしまった。 しょんぼりしていると、商品を待っている俺に店員さんが季節の水まんじゅうの試食ですとカットされた水まんじゅうをくれた。ぷるぷるでほぼ透明の皮に包まれているのは薄黄色の餡で食べると爽やかなレモンの酸味が広がった。 「うわぁ、美味しい」 水まんじゅうも買うべきだったかな。 でもこれの方が日持ちがしないんだよなぁ。羊羹の方が日持ちが長いし、うーん。 「何唸ってんだ?」 「あ、穂高さん。さっき水まんじゅうの試食くれてすごく美味しかったの」 「それで?」 「お土産こっちの方が良かったかなあって思いつつ、とりあえず自宅用に買おうかなって」 「やめとけ」 「なんで?」 「常温どころか車中放置だぞ。食ったらやばい」 「俺なら平気!」 「やめろ」 いや、本当に平気だって。 家族みんなが食あたりしてもインフルになっても俺1人元気だったし、おにーさんに拾われる前もあんな酷い生活だったのに体調を崩したことはなかった。 だから大丈夫!と訴えるけど、ダメと言われる。 「食いたいなら買ってって実家で食おう、な?母さんに用意してもらうし」 「それは申し訳ないよ!」 「そんなんいうなら羊羹だって切って出すのが普通なんだからどうせ用意させるんだし、皿に乗せるだけの水まんじゅうの方が楽じゃね?」 「はっ!!!」 そこまで考えてなかった! というかお土産に持っていったものは一緒に食べるんだね。そういうの俺はあんまり知らないと言うか分かんないんだけどおにーさんの家は持ってきてもらったものはならみんなで食べながら話しましょうかとお母さんが用意してくれるらしい。 もしかして逆に手間をかけさせることになるのでは? ああでもでも!手ぶらは無理ぃい! 「んな気にすんなよ。母さんは和菓子好きだし、あっさり飲めるお茶も買ってきたし喜んでくれるって」 「………うん」 彼女の家に行ったことも普通にあるのに、俺はおにーさんの家に行く今が1番緊張している。 これなら良いかじゃなくて、こいつなら穂高を任せられると思われたい。 そんな気持ちが、俺にすごい緊張感を与えていた。

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