241 / 434

241.

それから車を走らせて、お正月ぶりにおにーさんの実家にやってくる。 おにーさんにとっては当然自分の家だから、インターホンも鳴らさずに門を開けて平然と入っていく。 「鳥居とかない?大丈夫?」 「目ぇ開いてるか?」 「開いてる!起きてる!」 「普通に入ってこい。来たことあるだろ」 「あの時とは全然違うよぉおっ」 「うるさい」 そう言われてすぐに口を閉ざす。 うるさいやつと思われても嫌だし、ああもお緊張する! そんな俺を放っておにーさんはずんずん進んで玄関の扉まで開ける。そして俺が入れるように開いたまま、少し大きな声でただいまと声を掛けていた。 すると奥からもう来たの?と女の人の声が聞こえた。穂波ちゃんの声ではないから、きっとこの声の主はおにーさんのお母さんだ。 うわぁ緊張する! おにーさんに促されながら玄関に入るとすぐに女の人がやって来た。 「母さんただいま」 「おかえりなさい」 「小柄!あ!違う!初めまして!伊藤誠でっ、ッ!?」 つい思ったことが口に出たけど、気を取り直して挨拶をしてるとおにーさんにペシリと頭を叩かれた。 なに?と見上げると玄関でするもんじゃねえよと言われて、ハッとなってお邪魔しますと頭を下げた。 挨拶のことしか考えてなくて人の家に上がる丁寧な作法とかよくわかんないんだけど大丈夫かな。 そわそわしてるのを隠せない俺にくすっと優しく笑ったおにーさんのお母さんに気がついてちょっと恥ずかしくなる。 ああもおっ!俺のばか!挨拶だけじゃなくてマナーも勉強しておけばよかった!! そんな後悔をしながら、おにーさんとおにーさんのお母さんの後ろをちょこちょこ歩いてリビングらしきところに案内される。 俺の実家とは違ってよく片付けられたリビング。 おにーさんの家とは家具も広さももちろん違うけど、よく片付いたこの感じは似ている。こんな家で育つと一人暮らしをしてもあんな家になるのかな。 そして、そのリビングの真ん中にあるはずのソファに座らず窓のそばに立って外を見ているお父さんらしき人。明らかに背が高くて、体格が良いことが後ろ姿だけでもわかる。 おにーさんがその背中に近づいてただいまと声をかけていたからお父さんに間違いない。 ふああどうしよう!と悩む俺の前には俺ですら見上げなければいけないようなところに頭のあるおにーさんのお母さん。 「これお土産に持ってきたんです。良かったら食べてください」 「あらありがとう。そんな気を使わなくて良いのに」 そぉ言われても無理だよっ! 俺にとっては人生かかってると言っても過言ではない挨拶なのに! もちろんそう叫べるわけもなかったんだけど。 「お父さん、誠くんがお土産持ってきてくれたのよ」 「ん、ああそうか」 そう言ってやっとこっちに振り返った人は、おにーさんによく似てた。 「そっくり!!!………あっ」 「ぶっ、さっきから思ったこと口に出過ぎ」 つい叫んでハッとして口を押さえた俺を笑うのはおにーさんだ。 だってほんと!おにーさんからは想像できないくらいお母さんが小柄で、お父さん似とは聞いてたけど思っていたよりもはるかに似ててついうっかり! 緊張で頭と口が一直線なんだよっ。 「ごめ、なさい。でもでも!穂高さんによく似てて安心する」 「………はあ」 「へ?」 「まあいい。お土産渡したのか?」 「うん」 「なら母さんと用意してくるからちょっと待ってろ」 ふあっ!? まっ、待って!お父様と2人で置き去りにしないで! むりむりむりぃいっ! と心の中ですがり付いてみたけど、現実のおにーさんは離れて行ってしまった。 俺はそっとお父さんを見る。明らかに見上げる位置にある顔はやっぱりおにーさんによく似ているから、勝手に安心する俺がいるけどそういうことじゃなくて。 「誠くんだったっけ?」 「はい」 「仕事は?」 「社畜してます!」 「はい?」 「へ?」 きょとん顔でお父さんと見つめ合ってるとどうしたの?と明るい声が聞こえて、小さな音を立てながらテーブルに水まんじゅうやお茶が並んでいった。

ともだちにシェアしよう!