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ソファの前のテーブルにはおにーさんが買っていたらしいお茶と、俺が買った水まんじゅうが並ぶ。
L字になったソファの広い側におにーさんのお父さんとお母さんが並んで座っていて、狭い方におにーさんが座っている。もちろんおにーさんの隣には俺が座れるくらいのスペースもありそうだし、テーブルを見る感じそこに俺が座るだろうなと予想してお茶や水まんじゅうが置かれてるけど………。
「なんで床?」
「挨拶と言えば土下座!」
「どこの知識だよ」
「分かんない!けど確か兄ちゃんがそう言ってた!」
ちょっと今の俺の頭はどの兄か考えられないけど、頭を下げたって言ってたくらいなんだからソファに座るのがおこがましいというやつだ。
俺とおにーさんがそうして言い合っていると俺が折れないと思ったのかおにーさんまで床に座ってしまった。
「ふぁっ!?なんで穂高さんもここに座るの!どうぞどうぞ!お掛けください!」
「お前んちじゃないのに進めんの?」
「!!!でもここは穂高さんの家だもんね?」
「そう。で、俺がお前にソファを進めてんの。誠はどこに座る?」
「…………床?」
「なんでだよ」
やばい。
俺は挨拶よりも礼儀をもう少し勉強しておくべきだったかもしれない!
あわわと逃げたくなった俺に聞こえたのはクスクスとした笑い声。おにーさんのお母さんが笑っていた。
「穂高のいう通りよ。ソファに座って、ね?」
「ぁ、はい。お邪魔します」
そう言われたらソファに座るしかないと俺はソファに座る。ふかふかで柔らかくて、全体で体を支えるような座り心地にすごくホッとした。
それからなんだかんだおにーさんがご両親と話してる。
あんまり帰ってこない息子が帰ってきたんだから積もる話もあるんだろうなぁと俺は1人お茶を啜る。
あったかいお茶に、ようやく少し落ち着きを取り戻したような気がした。
「で、これが誠。まあ見ての通り男でちょっと、いやかなりバカだけど」
「褒めてる!?」
「褒めてる褒めてる」
「男の子なのは良いんだけどな」
「何?」
「成人してるか?」
「これで24」
まあ!と驚いたお母様の声が聞こえるけど、そんなに童顔だろうか。今鏡がないから分かんないけど未成年に間違われるほどではないと思いたい。
「お前は喋るとさらに幼いんだよ。年相応に見られたきゃ黙ってスーツ着てろ」
「ネクタイ結んでくれる?」
「お子様」
ついついいつものようにおにーさんと話していて、静かだなとご両親に視線を戻すと2人揃ってぽかーんとおにーさんを見ていた。
俺じゃなくて、おにーさん。
何か変なこと言ってたかな?
いつも通りだったと思うんだけどな……。
「穂高が初めて人を紹介すると言うから」
「そうよ。お母さんもお父さんもどうしたらいいか……」
「お前も穂積も外面だけは昔から良いから」
「猫被りがうまいって言うかね。けどそんなことしてても傷つく時は傷つくのよ」
ご両親が顔を見合わせながら話している内容は、きっとおにーさんのことと、猫被り?なおにーさんに似てるらしいミホちゃんのこと。
ミホちゃんの猫とおにーさんの猫は種類が違う気もするけど……まあそんなの今は置いておこう。
「穂高」
「なに?」
「背伸びも無理もせずにその子と過ごせるの?」
「ああ」
「そっか。そうなのね」
安心したような、それで居て複雑そうな顔をしているお母様。
おにーさんが背伸びせず、無理せず過ごせる相手が、女の子だったらきっと複雑な顔はしなかった。
息子が男と付き合うことを受け入れているとはいえ、そんな気持ちあって当然だ。特におにーさんは女の人でも大丈夫な人なわけだし。
そして残念なことに俺は今ここでおにーさんを幸せにしてみせますと大言を吐けるほど大きな男じゃない。
「穂高さんが意地悪でも優しくても、俺にとって必要な人です」
「「「?」」」
「穂高さんを幸せにするとか俺は言えないけど、俺が幸せに過ごすために穂高さんをください」
さっきまで緊張で頭が回らなかったはずなのに、これだけは口からするすると出てきた。
いつ頭を下げようとか考えてたのもどっかに行って、頭を下げてはいるけど俺の中の気持ちは縋り付くに近かった。
良く見えるように頑張ろうとしてない、ダメダメな俺の本音だ。
こんなの娘の結婚の挨拶に来たはずの男に言われたらたまったもんじゃないだろうに、俺は見栄えのいい言葉を並べることはできなかった。
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