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246.おにーさんサイド

実家からの帰りの車でメソメソと落ち込む誠を見てため息が出る。 別に父さんや母さんに反対されたりはしていない。 反対どころか、俺がいい子ぶらずに過ごしてる相手を連れてきたことに安心をしていたように見える。それが女じゃなかったことは申し訳なく思うけど、その辺りに関してうちの両親は何も言わない。 帰り際、母さんは俺にこっそりちょっとおバカに見えるけど可愛げがあって楽しい子ねと笑っていた。 そしてその後誠に、穂高はほっといたら帰ってきてくれないからたまには一緒に遊びに来てねと言っていた。 そんな感じだったから誠が落ち込む理由はひとつしか思い当たらない。 「怒られたくないなら行儀悪ぃことすんな」 「何もお父様とお母様の前で怒ることないじゃん!」 「うるさい。家だからとか言ってたら外でも同じことやるんだよ」 「もおそれ耳にタコができたあっ!」 いやいやと首を振って手で耳まで抑える誠を片目にハンドルを握る。 こいつが落ち込んでいるのは何も説教するにしても俺の家じゃなくてもいいじゃないかと言うことだ。そうは言っても躾や叱り方の基本としてはやらかして後から怒るんじゃ効果はなくて、やらかした直後に叱るのがいい。 「気にするな」 「気にするよっ!あんなの俺がダメダメなのバレちゃうじゃん!」 「良いんだよ」 なにが!と叫ぶ声にうるさいと返す。 自分が短気なのは認めるけど、俺が怒りを露わにすることはそうない。 内心イライラしようが基本的には言わない。 その方が楽だから。 そんな俺がわざわざ注意して怒ってるなんて両親からしたら眼から鱗だったと思う。 「また来てねって、お世辞かなあ」 「いや、たぶん本音」 「俺何にもしてないよ?」 「両親からしたら俺が怒ってんのが嬉しいんだよ」 「?」 友達がいないわけでも孤立してきたわけでもない。 だけどこんな風に人と関わったことはほとんどない。 「お前くらいだよ」 「なにが?」 「俺が怒るのも口悪ぃのも」 「これが穂高さんのデフォルトじゃん」 「お前にはな」 「???」 ある意味出会いが良かった。 その時だけのつもりで話を聞いて、なんとなく拾って。 口が悪いのも性格が悪いのも自覚はあるから出て行くだろうと思っていた。それなのに出て行くどころかどんどん懐いてくる誠に愛着を持つのは簡単なことだった。 その愛着がいつからこんな重たいものに変わったのかは分からない。それでも逃げないどころか最後は自分から堕ちてきた感溢れる誠が良い。 好きだから優しくしたいけど、好きだからいじめたくなる。 俺にしか見せない恥ずかしい姿や欲情した姿に湧き上がる興奮と、満たされる独占欲と支配欲。 相反するようで、同じ相手に向けられるその感情を全て受け止めたのが誠だった。 「好きだよ、誠」 「っ!?!?」 ああ、今運転してるのが勿体ない。 こういうことを言うとなぜか照れる誠だから見れないのが残念。かと言って俺はそうほいほい言ってやれるようなタイプでもない。 「うぅっ、ずるい」 「何がだよ」 「こんなのどんどん好きになる」 「なればいいだろ」 「甘やかすの禁止!」 「無理だろ」 甘やかしたい気持ちだってこいつに向いてんだから。

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