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恋人の家で正座をさせられ、お説教をされるなんて貴重な経験をしたお盆も終わり、相変わらず社畜らしい毎日を過ごす俺。 お盆明けは少しばたついたけど、そんな日々も乗り越えて月が変わっていた。 「伊藤くん、今いい?」 「はい、大丈夫です」 「この検査したいんだけど、大学に設備あるか分かる?」 「えっと、ありますね。俺はあまり使わなかったけど、いつも訪ねてる教授は使い方知ってるはずなんで大丈夫です」 「だったらこれと、他に検査したいってため込んだもの持って近々行ってきて貰っていい?」 「はい!」 つ、ついに来たあっ! どうせいつか大学に行くと分かってたし、その時に母さんに大事な話(おにーさんのこと)をしようと決めてから何日経ったかは分かんないけどついに来た! 「なんか気合い入ってる?」 「ちょっと、まあ。けど大丈夫です、測定はきちんとしてきます」 「その辺は信用してるよ。伊藤くんは2年目にしては仕事量が多くて申し訳ないなと思ってるけど」 「仕事は楽しいんです。納期さえなければもう少しゆっくりやりたいです」 「どうしてみんな急に持ってくるんだろうね……」 そう言って野田さんは自分の机を眺める。そこにはサンプルがいくつか乗っていて、至急!ごめん!と赤い文字で書かれていた。 そう、昨日俺たちが帰る頃にはなかったはずのものが朝来たら乗っているなんてこともまあ良くある。なぜか急ぎのものに多いけど、今回も例に漏れず急ぎなようで野田さんの目はサンプルを見ているようで、どこか遠くを見ているようでもあった。 しばらくどこかを見ていた野田さんは、ふと我に帰って振替の休みはいつにする?と話題を変えた。 「悩んでます」 「連休の所でも大丈夫だよ。俺はお盆に家族孝行させて貰ったから遠出の予定はないし」 「早めに伝えるようにします。すみません」 「いいよ、今回は俺も内村くんも出る気だし」 「ありがとうございます」 ぺこりと頭を下げて、しっかりとすることに刻み込む。 まずは出張の日程を教授と合わせて、そのあと母さんに予定の確認。 あとおにーさんに振替のお休みはいつにしようかという相談。 ちょうどパソコンの前にいたから、教授にメールを送ってからその日の仕事に打ち込んだ。 そうして夕方に事務室に戻ると教授からの返事が来ていて、その機器も使うなら金曜にしてくれと手短な返事が来ていた。俺があんまりその機器を使ってなかったことは知っているだろうから、教授的に手が空きやすい日を教えてくれたんだと思う。 調整してまた連絡しますと返事を送り、今日の測定結果の入力をして仕事を終えた。 「ただいまぁ」 夜も遅い時間。 日が変わるまで後1時間もないくらい。この時間になるとおにーさんは布団に入っていることが多いから俺は静かに帰宅する。それなのに廊下の奥からおかえりって声と物音が聞こえて、こっそりするのをやめてリビングに駆け込んだ。 「穂高さんっ!」 「どうした?」 「久しぶりっ」 「朝は会うだろ」 「俺がバタバタしてるもん」 もうすぐ寝るのかもしれないけど、ちょっとだけと抱きつく。こうして抱き返してくれるのはやっぱりいい。 「おかえりのちゅーも」 「はいはい」 んーっと見上げるとちゃんとちゅってしてくれて俺は嬉しくって小躍りしたくなる。やっぱりもう少し早く帰ってきたいなあと、こんな時に強く思う。 「飯する?風呂?」 「穂高さん寝ないの?」 「今日金曜日だから別にいいよ」 「お風呂!ちゃっと入ってくる!」 荷物を置いてお風呂場に慌てて駆け込む。 着替えくらい持っていけという声が聞こえて、お風呂場に行く前にほんのり寄り道をしてシャワーを浴びた。

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