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超特急でシャワーを済ませて、ドライヤー片手にリビングに戻るとおにーさんがご飯を温める用意をしてくれていた。そんなおにーさんに近寄ってスッとドライヤーを渡すとため息ひとつで受け取ってくれる。 「自分で乾かせよ」 「穂高さんに頭触られるの好き。ミホちゃんまで行くとこの時間だと寝る」 「あれで美容師だからな」 そうそう。 頭を触る手は本当に優しいからついつい眠気がやってくる。もちろん俺の頭がカクカク揺れるとミホちゃんにとって迷惑だから、パシッと叩かれるんだけど。 きっとお客さんなら寝てるとどうなるかわかりませんよって優しくいうんだろうけど、俺にはそういうお客さんに対しての優しさが向けられることはない。 そんなことを考えているうちに濡れていた頭が綺麗に乾いていて、直してこいとドライヤーを渡される。俺が持ち出したんだから当然のことで、てこてことドライヤーを洗面所に戻してリビングに戻ると少しずつご飯が並び始めていた。 相変わらずおいしいご飯を食べて、ふう満腹!とお腹をさする頃には日が変わってしまっていた。 「穂高さぁん」 「なんだ?」 「振替の休みっていつにしたらいい?」 「いつでもいいけど」 「うーん。悩む」 「4連休に取れたらどっか行くか?」 「うーん………」 おにーさんと旅行に行くのは好きだけど、それは悩む。 この時期がどれほど忙しいかも知ってるし、今も思い知らされている最中だ。 食べ終わった食器は水に晒しただけで、おにーさんはすぐに俺を抱き上げて自分の上に乗せた。そして好き勝手撫でて舐めて、たまに噛んでとまあしたい放題だ。 疲れているとこうして甘えてるというのはもう分かってるから、俺はそんなおにーさんに腕を回して好きなようにされている。 こうして疲れている中、どこかに連れて行ってもらうのも気が引ける。それなら家でゆっくりしてた方がいい。 「別にいいよ。俺も温泉入ってゆっくりするのは好きだし」 「だけど、穂高さんも疲れてるのになんか悪い……」 「だからいいって。広い風呂で疲れとって、いいもん食えば休まるだろ」 「………」 「俺と旅行行くの嫌?」 そう聞かれるとふるふると首を横に振ることしかできない。 おにーさんと旅行に行くのは好きだ。俺1人じゃ行かないところにたくさん連れて行ってくれるし、俺が知らないこともたくさん知っていて教えてくれるからすごく楽しい。 だけどそのために無理をさせたいかと聞かれたらノー。 「無理はしない。つーか連休取るために無茶すんのは誠じゃね?」 「俺は良いんだよ」 「なんでだよ」 「だってお休みの日はお休みだもん。穂高さんは違うもん」 休みの日だって平日と変わらず家事をしてくれている。 俺みたいに好きなだけ寝て、出来上がったご飯を食べて、綺麗に洗濯されたものを着ているだけじゃない。 だからおにーさんには休みなんてあってないようなものだと思っている。 「何度も言うけど、家事なんてお前が居ても居なくてもするんだから気にしなくていい」 「………いいの?無理しない?」 「しない」 「………なら行く」 「いい子」 ぎゅうっと抱き締めてくる腕の力が強くなって、そのキツさが心地いい。 どこに行くの?と尋ねたら楽しみにしてろと言われるだけだった。 そうして話ついでに、出張が決まったことも話す。 9月は振替があるから人並みに休めそうなのに、なんでだかいつもより予定がたっぷりな気がしつつ始まった。

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