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出張のタイミングに悩みながら、急にはなるけど次の金曜日に行こうと決意する。 もし母さんに反対されて凹んだとしても、そのあとゆっくり温泉にでも浸かれば癒される気がするし。 いいものを食べて英気を養うというのも考えたけど、場合によっては砕け散るから、いいものを食べて元気を貰うことにした。 急だったしいきなり家に寄るなんて連絡したから母さんも驚いていたけど、こうして相変わらずな料理を作ってくれるあたりやっぱり俺の母さんだ。 「あ、あかん、生やわ」 チンするからここ乗せてとお皿を出す母さん。 今回はカレーに牛カツが乗ってたんだけど、これはカツカレー的な感じで父さんもうんうんと頷いてそのまま食べようとしたけど、カツが生らしい。 うちではよくあることだから慣れたもんで、俺も父さんも牛カツを掬い上げてお皿に乗せてチンしてもらう。 「仕事は順調か?」 「忙しすぎるくらい」 「無理はするなよ」 「うん、大丈夫」 父さんと仕事の話をする日が来るなんてなぁ。 子どもを5人も育てるって簡単じゃない。しかも俺を含めて望んだら大学も行かせてくれたし、俺が思っていた以上に父さんはきっと働き者だ。 働いてみて、お金を稼ぐ大変さを知った。 あんだけ働いて安月給だった去年(今年は人並みだと思いたい)。 おにーさんはホワイトな環境で高収入だけど、その分難しい試験やいろんなことをしてるだろうからお給料は努力が積み上げていくものなんだろうなと思うようになった。 父さんも母さんも俺の仕事が気になるようで、色々と聞かれたりしながらご飯を食べて、母さんが片付けるのを待っていつ話そうかと1人そわそわする。 と言うか父さんもいるし! 「誠そわそわしてどないしたん。トイレ?場所忘れた?」 「覚えてるから!」 「なんやの」 「ちょっと大事な話が、あって?」 「大事な話?」 「そう。えっと、その……」 「ああっ!その指輪か!?ずっと聞きたかってん!ご飯食べて忘れてたわ」 「ああ、うんそう。その話」 母さんのずっとって短いな。 そしてご飯食べて忘れれるほどのことなんだな。 「なに?結婚でもするん?」 「待って母さん!俺が話があるって言ってんのになんで先々行くの!」 「まどろっこしいのめんどくさいやん」 あっけらかんと言ってるけど、母さんたちがショックかなと俺は遠慮してるのに全くもう! 「悪いけど俺結婚しない」 「「?」」 「というか出来ない」 「………誠」 「はい」 ハッとした母さんが真面目な顔して俺を呼ぶ。 俺も姿勢を正して返事をすると、それはそれは思いもよらぬ言葉が降ってきた。 「あんた、不倫はあかんで。ちゃんと別れてもらい。お母さん相手の人が再婚でもなんも言わんけどな、そのまんまはあかん」 「違うから!既婚者じゃないし!」 「あ、そうなん?なんや、てっきりそうなんかと」 テレビの見過ぎ! 俺はそんな道歩かないって! そっちの険しさはやだ。 「ならなんで結婚しやんの?」 「俺、男の人が好き」 「………彩綾ちゃんって男の子やったっけ?」 「どっからどう見ても女の子だったけど」 「誠、お前な「お父さんは黙っとって」 ようやく口を挟もうとした父さんをピシャリと黙らせたのは母さんだ。怒鳴ってないし怒った様子もないけど、何もいうなという無言の圧力を父さんにかけている。 「最近聞くようになったLGBTとかってやつ?」 「関係だけを言えばそういうマイノリティだろうね」 関係だけを言えばね。 だけど、いざ自分が同性を好きになってみて思ったのは何も変わらないのだ。 エッチの仕方という意味じゃ大きく変わってしまう側だったけど、人を好きになるってことは相手が女の子だとか男の人だとかそんなことで変わりはない。 甘えて、甘えられて、すれ違えば当然喧嘩だってする。 ただ、おにーさんは俺よりずっと大人だから大きな喧嘩はしない。折れてくれる時もあれば、そうじゃない時はきちんと説明をしてくれるから俺も自分の気持ちを話しやすい。そうして何となく丸く収まって過ごす毎日は、これまでの恋愛と大きく変わったと言う気はあまりしない。

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