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自室にゲームは愚かテレビすらない実家はなにをしたら良いのか分からずに暇を持て余した。
まあ昼ごはんを食べたら帰るつもりなんだけど、退屈だ。
「あかん、暇やわ」
「それ俺のセリフ」
そうしてソファに座る俺と母さん。
そんな中父さんが掃除をしているのが我が家ではよく見られる光景。母さんも掃除するけど、休みの日は父さんがすることも多い。俺はともかく上4人は詰まってるから、母さんも育児にいっぱいいっぱいで父さんと家事を分担して以来、2人だけになった今でさえ分担は変わらないらしい。
「母さんって父さんのどこが好きで結婚したの?」
「ええ、難しいこと聞くなあ」
「そう?」
「つるっぱげ一歩手前やで?」
「昔は違うでしょ」
「そうやなぁ」
「お母さんが大阪出身なん知ってるやろ?」
「うん」
「お母さんこっち来て働いてすぐホームシックになってな」
「意外」
「もう辛くて辛くてたまらんかった時、お父さんがいきなり大阪に連れてってくれてん」
うんん?
誘ってくれたんじゃなくて連れてってって一歩間違えたら拉致じゃない?気のせい?
「それが嬉しくてなぁ。久しぶりに大阪に帰って元気になってまた働けたわけや」
「俺母さんが仕事できた理由聞いてないんだけど」
「そんなんしてくれる人おらんやろ。その後もお母さんがもう無理やって言う度大阪に連れてってくれたし、あんたら産んでからはもう無理やって家事投げ出してもなんも言わんとやってくれる。優しい人やねんで」
大阪の件は知らないけど、それ以外って母さんが押し付けたんじゃ?と思わなくもないけど父さんがそれに不満そうにしてる様子はない。
「あれやな、お父さんがお母さんにベタ惚れやねん」
勝手にそう結論づけてわっはっはと笑う母さんはいつもと変わらない様子に見える。俺がいつも通りだと思っている母さんは俺達きょうだいに隠したたくさんの涙があって、それでもこうして笑ってる。
「俺、俺の母さんが母さんでよかった」
「なんなん、褒めてもなんもでやんで」
「遅いけど、就職したし母さんになんか買おうかな」
「ほんまに?ええの?」
「良いよ」
初任給で買ってあげるのは、経済的に完全に不可能だったけど今ならその余裕はたんまりある。おにーさんのおかげではあるけど、一応働いたのは俺だから俺が稼いだお金であることには変わりないし。
思っていたよりも深い愛情をくれていた母さんにちょっとした恩返しをしたい。俺の場合、家庭を持つ訳でもないしおにーさんの性格的に折半もしないままだろうから、これからは誕生日や母の日も忘れないようにしよう。
「お母さん今欲しいものあってん」
「なになに?」
「ドラム式洗濯機!」
「なんで家電!?主婦ってどうして就職した息子に家電買わせるの!」
ドラム式の洗濯乾燥機。
うんあれは本当に便利だよ。おにーさんも使ってるけど、晴れの日は洗濯だけしてベランダに干して、雨の日は乾燥までお任せしてる。
「他にもそんな人おったん?いやぁ、よぉ気持ちわかるわあ」
「洗濯機調子悪いの?」
「そうやねん」
それは困った問題だな。
今時洗濯機が使えないなんて終わってる。毎日コインランドリーとか洒落になんないし。
「良いよ。父さんに車出してもらって買いに行く?」
「ほんまにええん?あれ高いで?」
「大丈夫」
流石に今現金で持ってるかと聞かれたらノーだけど、クレジットカードなら持ってるし。
母さんは掃除が終わりかけの父さんに買い物行くで!と声をかけていて、行く気満々だった。
ドラム式の洗濯機を買い、そのまま外でご飯を食べて、ついでに駅までも送って貰って地元を離れた。
電車の中で考えるのは両親のことだった。
俺はきっと返せないくらいたくさんのものを貰ってきた。
これまでもそう酷い親不孝はしてないと思うけど、これからはもっとちゃんと大事にしたいなぁと自然と思えた。
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