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俺がびちょびちょに濡らした服を着替えながら、おにーさんはなんか飲む?と俺に聞いてくれる。
ほっと落ち着きたいなと思ってあったかいカフェオレを頼む。
「誠って夏でもホットだよな」
「アイスにすると氷入れるでしょ?」
「ああ、薄まるのが嫌い?」
「そぉ。外で一気飲みするときなら頼むけど、ゆったり飲むときはホットが好き」
部屋は適温だし、あったかいものを飲んでも暑いって程ではない。それにおにーさんが淹れてくれるものはあったかい適温で、ちょっとふーして飲めるいい温度だから好き。
服を着替えたおにーさんが隣に座って、あったかいカフェオレを渡してくれる。程良い甘さが広がって、いろいろな気持ちが少し落ち着いた感じがする。
今回、出張の仕事は問題なくやってきたはずだけどそのあとのイベントが大きすぎてあんまり覚えていない。
そして、母さんの深い愛情と、それと同時に父さんの懐の深さも感じた。
父さんは母さんに黙らされてる時が多いけど、黙って全部を受け入れるのもきっと簡単じゃなかったと思う。
「俺、今度お正月は実家帰ろうかなあ」
「その辺は任せる」
「またあんたに割く部屋ないわって言われたら凹む」
「………」
「人数が人数だし毎年は集まらないと思うんだぁ」
「そんだけ集まるって誠んちってデカい?」
「田舎だからこっちに比べたら大きい家ばっかりだけど、まあその中でも大きいと思う」
元は俺が生まれるより前に大きな平屋の家を買って、兄たちの成長に伴い個室を作るために2階を増築して、俺が大きくなってきてまた増築。
そんなわけで2階に上がる階段は2つあるけど、2階同士は繋がってなかったりする(これが本当に不便極まりない)。
大体の家が大きめの平屋かそこそこの二階建てばかりの中、平屋に増築を重ねた家は珍しい。
「けど今は全部無駄だよ」
「なにが?」
「あんなに部屋があるのに父さんと母さんは下で寝起きしてるし。兄ちゃん達が同居するのかどうかも俺は知らないし」
「まあ働いてると転勤とかあるしな」
「穂高さんは?」
「俺はほぼない。まあ東京の別支部に行くことはあるかも知んねえけど、ちょっと遠くなるだけでここから通える。誠は?」
「俺が転勤する時は会社を辞める時だね!」
「はあ?」
俺がもし転勤するのなら、たぶんそれはここから通えるようなところじゃない。数年先とかそんなレベルじゃなくて、10数年先の話になるだろうけど、たぶんどこかの支社の偉いさん目指して頑張ってね!って意味での転勤くらいしか考えられない。それまではたぶん、1番製品が集まる本社の、1番製品について深く掘り下げて考えることができる技術部から動くことはない。
俺が転勤するのであればどこかの地方であることが有力だから、そうなれば俺は辞める。何年経っても俺はおにーさんから離れて仕事ができるとは思えないから、その時は大人しく辞める。長年(と言っても今はまだ1年半くらい)したためている辞表を提出する。
「………場所にもよるけど、それなりに都会なら俺も移動してやってもいいぞ?」
「ふえ?」
「あんまり田舎になると取引先に行くのが面倒だからな」
「へ?穂高さん転勤はほぼないって」
「まあな。けど望めばできると思うけど?」
「うーん………まあ!来るかもわからない未来よりも俺は今の時間を楽しむよ」
「誠らしいな」
「もしかしたらそれより前にあまりの社畜っぷりに穂高さんに監禁されるかもしれない」
「お前な、笑ってるけどあり得るぞ」
「え゛っ」
冗談のつもりで言ったのに、おにーさんは真顔で、真面目な声でそんなことを言う。いやいや、ほんの冗談……なんだけどな?
「あんまり無茶して働くようならそうせざるを得ない時もある」
「そこまで行くと歪んでるんじゃなくて怖いよ?」
「気にすんな」
いやいやいや!
向けられた俺の気持ちは!?
………なんでかキュンとしたから俺もだいぶやばい。そうなってもいいやって思ってるのが本当にやばい。
「顔にやけてるぞ」
「………仕方ないじゃん。俺は穂高さんに監禁されてもたぶん笑って家ん中にいると思う」
「まあ家から出るなっつーより仕事に行くなってことだから閉じ込めはしねえよ」
「わぁお。俺主夫になる??」
「ならない。お前が家事してるなんて考えただけで仕事になんねえよ」
「それ俺ただの食い扶持増やしてるやつ」
まあ今も大して変わらないけど。
そうしておにーさんに家の中で飼い殺されるのも悪くはないけど、俺はまだまだ親孝行し足りないからそうなるわけにはいかない。
働きすぎに気をつけようとほんのり思ったけど、俺がどう思おうが仕事は降ってくるんだから………仕方ない。
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