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忙しくバタバタ日を過ごすうちに、気づけば連休に突入していた。いまだに俺は行き先を知らないし、なんなら荷造りもしていない。 それなのに、今俺が目覚めるとクローゼットのそばには荷物が詰め込まれてふっくらした俺のボストンバッグが置かれていた。 「………どこ行くんだろ」 まだ俺が起こされないところを見ると、おにーさんは俺がこうなることを見越して出発を遅く考えていてくれたのかもしれない。 そう思ってスマホを見ると8時半と表示されていて、毎日の癖と旅行の楽しみで早く起きてしまったんだなあと思って起き上がった。 「おはよぉ」 「おはよう。早いな」 「楽しみすぎて目が覚めた!」 「まあいいけど。眠かったら新幹線で寝ていいぞ」 「新幹線?」 「もしかして乗ったことない?」 「流石にあるよ!あれ、もしかして思ってたより遠いところに行ったりする?」 「春に話してただろ」 春、春??? うーんと少し考えて、そう言えば関西に行く?みたいな話が出てたけどあれは俺の休みが取れたらの話で………休みが取れたんだ!!! 「大阪?京都?」 「とりあえず京都」 やったぁあ! 京都!京都!と一瞬ルンルンと踊り出しそうな勢いになって、そしてガタッと止まる。 待って、待って? 「あのぉ」 「どうした?」 「俺、新幹線のチケットくらい買わせてもらえるよね?」 「もう買ってるけど」 「あああっ!」 ガーンと項垂れてメソメソと机に泣きつく。 いつもの旅行よりなんかお金かかってない?いけてる? 「誠ってほんと変だな」 「うん?なにがぁ?」 「俺がどんだけ稼いでるか知ってんのに未だに甘えようとはしない」 「俺も働いてるもん」 「そうだな」 稼ぐ大変さを知ってるからこそ、甘えていいのかも悩む。 もちろん悩んだからはいどうぞって出させてくれる人じゃないからほんとただ悩んで1人勝手に遠慮してるだけなんだけど。 「無駄だと思って聞くけど旅館代を出させ「るわけねえだろ」 ですよね、知ってた。 こうして俺は今回もありがとぉと言うしか出来ない。 それにモヤモヤする気持ちもあるけど、それを取っ払ってくれるのもやっぱりおにーさんだ。 「誠は俺がどんだけ稼いでてもねだらないだろ」 「そりゃ、ねだる前に甘やかされてる自覚があるもん」 「甘えられるのは好きなだけどうぞって感じだけど、やっぱ金ねだられるのは気分よくねえんだよ」 「ならなんで出させてくんないの」 「誠はいつもありがとうって言えるし、いつも遠慮してるだろ。そんなん甘やかしたくなんねえ?」 「………?」 「俺は誠のそういうとこ好きだよ」 ボンッ!と俺の体の中で何かが爆発して血液の暴走が始まる。おにーさんは俺のことを大事に、そして甘やかしてくれるけどこういう言葉はあんまり言わない。 それを不満に思うことはないけど、たまに言葉にされると俺はもう恥ずかしくてたまらない。 なんだか論点をすり替えられたような気もするけど、気にすることないんだと言ってくれたのも分かってる。だから俺は少し口を尖らせて拗ねたフリをしながら朝ごはんを食べて赤いであろう顔を誤魔化した。

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