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おにーさんと2泊3日の京都旅は非常に充実していた。 俺が思っていたよりも近代的な京都につき、テレビで見たものより立派な川床に連れて行ってもらって美味しいものを食べ、水族館にも連れて行ってもらい、おにーさんが行ってみたいなといくつか絞っていた観光名所をゆっくりと巡った。 泊まったところはこじんまりとした旅館だったけど、料理は文句なしに美味しかったし、部屋は和洋室なんていう洒落なもので和室もありながらベッドで寝れる何とも贅沢な空間だった。 スケジュールも出発は俺のことを考えて少し遅めに、そして帰りは少し早めに帰ってくるという実にのんびりとした旅行だった。 旅行慣れしてない俺だけど、おにーさんとの旅行は楽しい。のんびりしているし、俺が嬉しいポイントもちゃんと組み込まれているし、夜だって当然おにーさんと一緒に寝れる(エッチはしてくれないけど)。 はぁあとため息が出るのは、1ヶ月後くらいにある社員旅行のせいだ。 「穂高さん」 「なんだ?」 「どうやったら熱が出ると思う?」 「はあ?」 「社員旅行に行きたくないから、熱を出したい」 「………水風呂とか?」 「冬に水シャワー1週間しても平気だったよ」 「お前の体大丈夫か?」 俺の体の心配はいいから! 本当に無駄なくらい丈夫に産んでもらっただけだから! 「いつ?また夢の国?」 「10月最後の土曜から1泊2日。今回は温泉だそうです」 「は?」 「もちろん俺は大浴場なんか行かないよ?」 「当たり前だろ」 それが当たり前っておかしいと思わないの? 温泉に行って温泉に入らず部屋風呂……。 まあいいんだけどさ。俺もまさか職場の人にこんなツルツルの体は見られたくない、断じて。 「休みたい、行きたくない。熱出ないかな」 「誠って最後に熱出したのいつ?」 「うーん、分かんない。覚えてないくらい昔」 「そこまで元気だと熱出たって言っても信じてもらえなくね?」 そうなんだよなあ。 俺、お腹痛いとか頭痛いってことでさえ働いてからどころか、記憶にない気がするもん。仕事の量に頭を抱えることなら良くあるけど、残念なことにそれが頭痛につながったことは今のところない。 おにーさんは病気になれない自分に嘆く俺に、どこ行くんだ?と聞いてきたから、仕事用の鞄を漁ってプリントアウトした強制残業通知……じゃなかった、社員旅行の案内を取り出しておにーさんに渡した。 「へえ、いい旅館じゃん」 「そぉなの?」 「ああ。宴会のスケジュールもあるかも知んねえけど、ここ確か貸切とかあるから入りたかったら予約したら?」 「!!!」 「1人で貸切は贅沢だけど、それなら俺も反対しねえよ」 「ありがとぉ!」 「あと、お前これ取って来てくんね?」 「ふあ?」 そう言っておにーさんが指差すのは羽のない扇風機、ただし温風も出るらしいやつ。 確かこれ高いんだよね。まだ俺が実家にいたころ、母さんが孫が扇風機に指突っ込むのが怖い!とこれを買いに行った記憶がある。 おにーさんが欲しい理由がよく分かんないし、年に2度も俺の分まで全額負担していいところに連れてってくれるにも関わらずそれでもまだ貯金する余裕があるおにーさんに買えないものだとも思えなくて首を傾げる。 「冬になると朝キッチン寒ぃんだよ。だからなんか欲しいなって思って。ファンヒーターでもいいよ」 「早いもの順で選べたらキッチンを素早くあっためられそうな系ね」 「お前に欲しいものが無かったらな」 「スイッチが微妙に欲しいくらい」 「ゲーム機かよ」 「けど今の俺に買えない理由がない」 だけど俺は残念なことに任天堂系のゲームってあんまりしない。好きなシリーズもあるんだけど、プレステの方が好き。グロくてハードで難しくてやりごたえ満載のものが好きだったから、結構早くからプレステだった。そして母さんにねだりにねだって、18歳になる前からZ指定のソフトを楽しんでいた。 あとはギフト券とか、他にも景品があるよって書かれているけど俺はあんまり興味がない。 「宴会、やだなあ」 「お前は飲むなよ」 「分かってるよぉ。けど技術部はほぼみんなからみ酒なんだよ」 「全員?」 「田中さん以外はからみ酒。田中さんは吐いてた」 「弱すぎねえ?」 「穂高さんから見たらみんな弱いでしょ」 俺が弱いのは認めるけど。 絡んだりしたと言われたことはないけど、だいたいは寝てしまうのが俺。起きたら飲んでいた場所と違うところにいるのが当たり前だけど、今はそんなことするわけにも行かない。後からされるおにーさんのお仕置きが怖い。 そんなことを考えて、やっぱり熱を出したいとぼやいた俺は何も間違ってないと信じたい。

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