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そうして俺の4連休が終わり、仕事の大詰めを迎えて忙しいおにーさんに構われ倒して9月が終わった。
10月になり、俺の会社では小さな部署異動なんかがあった。将来的に営業を希望する若手は定期的に異動していろんな部署で勉強してるから、まあそういうことで俺には関係がない。
そんな些細な変化があっても相変わらず社畜らしい生活をして、気づいたら俺は社員旅行に追い詰められていた。
「なんで社員旅行のために残業しなきゃいけないんだよおっ」
と嘆きながら仕事をする。
去年もそうだったけど、今年も行きたくない。
「野田さん、なんか1日で熱出る方法知りませんか?」
「うーん、水風呂とかは?」
「俺が健康すぎてなんの効果もないです」
「ほら、今回は温泉だしゆっくりできるしさ、頑張ろう?」
「ううっ嫌です」
上司に行きたくないと言ってみても何も変わらないけど、言うだけならタダだ。温泉に行っても浸かる予定はないし、宴会では絡み酒に潰されないようにしなきゃいけないしで大変だ。
まあこうして日が変わるまで働くのも今日までだ。明日には知らない観光地に行って観光と温泉を楽しみたい予定だ。
「そういえば部屋割りってどうなってるんですか?」
「伊藤くんは同期と同じ部屋のはずだよ」
「6人部屋ですか?広そう」
「若いのは集まって枕でも投げてたら良いよ」
「そこまで若くないですよ」
「俺はもうゆっくり温泉に浸かってマッサージチェアに乗ってそのあとは日本酒でぐびっと締めれたらそれでいい」
いやいやいや、ぐびっと締めれてないですよ。
いつも酷いからみ酒で、去年の社員旅行でいえば翌日は胃もたれでぐろかったですよと思った言葉は飲み込んだ。
野田さんにとっては去年よりはまだいいかと思える行先なようだ。俺的にも、テーマパークより温泉の方がのんびり出来そうなイメージがあるからまだマシだけど、ベストではない。
翌日の予定を話しながらなんとか仕事を終わらせて、夜な夜な家に帰った。
「ただいまぁ」
「おかえり」
聞こえた声に俯いていた顔を上げて、急いで靴を脱いでリビングに走る。
「ただいまっ!」
「っ、おかえり」
勢いよく飛び込んだ俺を受け止めてくれる大好きな人。
原付を飛ばして冷えた体があったまるぅ。
そのあったかさをスリスリしていると、飯食ったら風呂入れてやると言われて俺は小躍りを披露した。
「ふふっ、これで明日家でまったりできるなら最高なのになあ」
「まあ会社行事じゃ仕方ねえよ」
「穂高さんのところはないの?大きいよね?」
ふっと湧いた疑問。
分野が全く違うからおにーさんの会社がその業界でどんな規模なのかは知らないけど、そこそこに大きいはずだった。
「あるけど数年に一度だな。来年か再来年あたりじゃねえか」
「そっかぁ。俺も行けるかな」
「無理だろ」
だよね、知ってた。
だけどおにーさんが社員旅行に行っちゃうと俺プチ一人暮らしだもん。数日なら頑張れるけど、さみしい。
「俺んとこは自由参加だから行かねえよ」
「……ホワイトとブラックの差は個人の意思を尊重するかどうかさえ分けるんだね」
少しいじけてサラダのパスタをクルクルとお箸に巻き付けると行儀が悪いと怒られてしまったけど、美味しいご飯はパクパクと完食した。
食器を簡単に片付けて、お風呂お風呂と急かす俺。
おにーさんと入るのは大好き。まあムラムラするけど、それはそれ。人に髪や体を洗ってもらう心地よさは癖になってやめられない。
けど相手はおにーさんだ。そのことを忘れてはいけない。
「ふあっ!?剃るの!?」
「念のため?」
「見て!この明らかに剃ってましたってわかるよね!?これで俺が大浴場に行くと思ってる!?そもそも行く気ないし!」
「俺の安心のため。大丈夫、今夜用意してるパンツとボストンに詰めたパンツはどっちもボクサーだ」
なんでパンツ?今パンツの話してた?と首を傾げた俺におにーさんが言葉を続ける。
「お前が朝起きて浴衣着てたことねえんだよ」
「………」
「だからトランクスじゃチラ見えしそうじゃん」
「………」
なるほど、それは否定できない。
おにーさんと旅行に行って、朝起きて俺がまともに浴衣を着ていたことは一度もない。前全開になってるからトランクスじゃ本当にチラ見えしかねない。
「そもそも浴衣で寝かせたくねえんだけど、寝巻き持ってかせるのも変な話だからな。暑くないならインナーくらい着て寝て欲しいけど」
うわぁ、おにーさんほんと。
独占欲がすごいね。
これに関しては歪んでるとはそう思わないけど、強すぎ。
だけど俺はふふっと笑うだけで重いとか嫌だとは思えないんだよなあ。
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