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そんな話をしていると、いきなり同棲ってまずい?と会話に混ざる声が聞こえて振り返る。その声の主は、阿川くんだ。 「………まさかとは思うけどミホちゃん?」 「うん。なんか、帰るの嫌だし俺も働いてるし何とかなるかなと」 「まあ、ミホちゃんは家事能力高そうだよね。少なくても料理は美味しかった」 「なんで伊藤くんが食べてんの!?」 同じ家育ちだから、おにーさんとおんなじ優しい味の料理で胃袋掴まれちゃったかな。 「伊藤くんって阿川くんの彼女見たことあんの?」 「仲良しー」 「どんな子?」 「…………じょ「伊藤くん」 「基本的に優しい子。考えすぎて自滅するのが玉に瑕」 「なんだそりゃ。阿川くんめっちゃ彼女好きじゃん、気になるなーって思って」 「そぉだね、あれは一種の麻薬かも知んない」 「はい?」 ミホちゃんの性格が良いとはとてもじゃないけど言えない。だけど間違いなく優しい。 それなのに性癖的に人をいたぶって興奮しちゃうという矛盾からすごくバランスが悪いけど、そう。昔なにかで聞いた一粒で二度美味しいみたいなそんな感じ。 「伊藤くんは家事とかどうしてるの?」 「分担を申し出たことはあるけど、俺がする方が気になって仕事にならないからやめてって言われた」 そういうと阿川くんも同期もゲラゲラと笑う。 信用なさすぎってお腹を抱えそうな勢いで笑われてるけど事実だもん。 俺が指を切ってないか、こけて怪我しないかと余計な心配ばかりして仕事が手につかないなんてひどく理不尽なことを苛立たしげに言われた。 だから俺が家事を手伝うとしてもおにーさんがいる時にごく簡単なことを手伝うくらい。やってると言えるほどのことは何もしていない。 「生活費は?」 「折半を申し出たら払うなら出てけって言われた」 素直に答えるとさっき以上の笑いが起きた。 あり得ないだの、伊藤くんヒモじゃんとか、どんな人と付き合ってんの?とかそんな言葉が次々と降ってくるけど俺は悪くない。 ちゃんとやる気も払う気もあるのに、させてもらえないだけだ。 「あー笑った。それなら伊藤くん働いてる意味なくない?」 「良いの、俺はこうして社畜してるくらいが良いんだよ」 「変なの。女の人の給料で人1人養って家事も完璧にして、伊藤くん何してんの?」 「………分かんない。ごろごろしてる」 「ダメじゃん」 ダメだ、俺がダメ人間なことが同期にバレた。 まあ良いけど。 「伊藤くん、ミホちゃんはどうすると思う?」 「ミホちゃんはある程度分担はしてくれるんじゃないかな。ミホちゃんが遅番の時は阿川くんの方が帰りは早いだろうし、シフトに合わせてあげたら?」 「そっか」 「けど、夢膨らませてるところ悪いけどミホちゃんにその話したことある?」 「ない」 キリッと言うところじゃないって。 こんなの本人同士の話し合いが1番大事なのに当事者1人置いてけぼりにされてるけど。 そんなツッコミを入れたかったのに、そろそろ時間だと誰かが気づいてぞろぞろと部屋を出て宴会場へと向かう。 この自由時間に結構な人が浴衣に変わっている。 お風呂に入ったのか、部屋でシャワーだったのかは分からないけど、わざわざ私服のままの人は本当に数えるくらいしか居なかった。

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