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そうして見守ることしばらく。 3番目に上がったのは鈴木さんだった。かなりお酒は回ってそうだけど、まだ歩けてるしビンゴができる程度には飲まれていないということなのか……。 周りがビンゴをする中、俺はそっと立ち上がって鈴木さんのところに行く。鈴木さんは同年代の女性社員と一緒に座っていて、なんとなく賑やかだった。 「鈴木さん」 「ん〜、あっ、伊藤くん飲んでる〜?」 「飲んでます。あの、もしよかったらダイソン交換してください」 「何と〜」 いや、俺がリゾート取ったの10分くらい前の話だよ? それも覚えてないの?体が動いてるだけで頭ん中出来上がってる? 「これです」 「えっ!?」 さっと鈴木さんの前に俺が取った景品を差し出すと間延びしてだはずの声が急にシャキッとした。 「えっ!?いいの?」 「はい、俺ダイソンが欲しいんです。それにこんなの行く暇が……ってそれは鈴木さんも同じですよね」 「あ、大丈夫!伊藤くんに仕事押し付けるから」 いや、ちょっと待って? 鈴木さんがやってる仕事、そりゃ内容は知ってるけど俺精密系は苦手だって知ってますよね。 せめて俺だけじゃなくて全員に押し付けてくれませんか。 「ほんとにいいの?ここいいところだよ?彼女と行かなくていい?」 「はい。こういうキラキラしたリゾートよりも落ち着いた旅館とかが好きなんで、自分たちで行きます」 「なら何かお土産のリクエストくらい聞くから言ってね」 そんな言葉と共にコソコソと景品の交換を済ませた。 席に戻ってすぐ、おにーさんにダイソン取ったよとメッセージを入れてスマホを直す。 同期たちも続々と上がっているけど、その中でちゃんとした景品を取っているのは阿川くんと竹本くんくらいだけど、2人ともほしかったものではないらしい。 「阿川くん何?」 「すき焼き用のお肉」 「ミホちゃんちで食べたらいいね。ミホちゃん、お鍋作るの上手だよ」 「だからなんで伊藤くんが知ってんの?俺ミホちゃんと鍋とかまだしてないんだけど!」 「椎茸もちゃんと切り込み入れてくれるんだよ」 「だからなんで伊藤くんが食べてんだよ」 ミホちゃんが作ってくれたお鍋も美味しかった。 そろそろお鍋の時期だなぁと思い、俺は返事も来てなかったのにお鍋食べたいとおにーさんに追加でメッセージを送った。 「鍋するなら2人よりもっと人多い方がよくない?」 「2人でつつくお鍋も楽しいよ?」 「そうかなあ」 学生の頃は一人暮らししてる誰かの狭いワンルームにぎゅうぎゅうに詰まるくらい集まって鍋をしたもんだけど、今はもっと落ち着いて食べたいと思うようになった。 「阿川くんは2人で楽しめそうなもんでまだいいじゃん」 「竹本くんは何取ったの?」 「お酒」 「ほお」 「焼酎とか飲めないんだけど」 これがいいお酒かどうかも俺には分かんないけど、こういう景品になるくらいだからそれなりなものだとは思う。 と言ってもこんなの飲めない人が貰ったところでなんの価値もない。 「2人が欲しかったチケットは?」 「それなら田中くんが取ってったよ」 「…………誰と行くんだろう」 「それは言わないお約束だろ」 もはや本社で田中さんがコミュ障だと知らない人はいない。誰と行くんだろうなんて失礼な心配をしても、それを失礼だと注意されるんじゃなくてわざわざ言うなといった感じになっている。 「まあ、田中さんが交換先探してたら名乗り出てみたら?」 「それがなんか嬉しそうなんだよ」 「?」 「すっごい笑顔で受け取ってたぞ」 ………? 田中さんってああいうところ好きなのかな。 そんな疑問を残しながら、宴会の夜は更けていった。

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