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話が長くなりそうだし、立ち話も疲れるから目に入ったカフェに入る。適当に飲み物注文したにも関わらず、どこか居心地悪そうな田中さんがポツリと呟く。 「伊藤さん、なんかここカップル多くないですか」 「夢の国に行ってもこんなもんなんで気にしなくていいと思います」 「………行くとは言ってません」 「行けばいいと思いますよ?原田さんなら田中さんがコミュ障なのも知ってくれてるじゃないですか」 ディスらないで下さいと言われるけど、事実を言っただけだ。猫を被り間違えた田中さんも、人に怯えながら仕事をする田中さんも見てるんだから、今更変な猫探してこなくても良いんだから田中さんにとってはすごくいいお誘いだと思う。 「でも、ほんと間が保ちません」 「なら映画でも見ながら並んだらどうです?」 「はい?」 「スマホじゃ画面ちょっと小さいけど、一緒に映画見てると話さなくて済むし、終われば感想を言えるから話にも困らない。2本くらいダウンロードしてれば十分です」 「いや、それありですか?」 「無言で居心地悪くないなら黙って並んでたらいいと思います」 俺は無言でも平気だったけど、スマホで映画やドラマを見たこともあれば携帯ゲーム機で狩りに出ていたこともある。 むしろ2人ともスマホを見つめて会話もなく別のことをしてるよりは一緒にゲームしたり何かを見てる方が俺はいいと思う。 「そもそも俺どう返事したらいいのかも分からないです」 そこから!? ほんとこの人、これまでどんな人間関係でやって来たんだろ。拗らせてるのは分かってるけど酷すぎる。 返事なあと考えて、ふと名案を思い付く。 「もし田中さんが言葉にしづらければ手紙を書いて渡したらどうですか?」 「手紙?」 「まるで詩でも書くみたいに綺麗な言葉が並んでて、普段の印象と違いました」 「………忘れてください」 いやいや、忘れられない。 俺ラブレター(?)貰ったのなんてあれが最初で、きっと最後だ。 あの時の手紙はかなり頭の中がお花畑だったけど、ちゃんと冷静に、頭を冷やしながら書けば綺麗な言葉で返事を伝えることができると思う。 「冷静に書けば大丈夫だと思いますよ」 「書けたら見てくれますか」 「それなんかおかしくないですか」 採点?採点いる? そんな手取り足取り恋愛してどうするんだよ。 「田中さん的には誘われてどう思ったんですか」 「嬉しかったです」 「うん」 「けど、逃げ出したくなりました」 「はい?」 「関われば俺なんて嫌になりますよ」 「田中さんがわざと原田さんを傷つけるつもりならそうなると思います」 「?」 「けどそうじゃないなら、田中さんは意図せず傷つけてしまった自分と向き合って原田さんに謝って反省したらいいと思います。原田さんが許してくれるまで、誠意を見せたらいいと思います」 拗らせ続けた男もそろそろ脱皮の頃合いなのかもしれない。 そうして田中さんの話を聞いているうちに自由時間も終わりになり、俺たちはバスに乗り東京に向けて出発した。 2度目の社員旅行は、去年よりもなんとなく楽しかったような気もした。

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