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仕事に飲み込まれて過ごしていると、あっという間に時間が過ぎて行った。 まだまだ先だと思っていた実家に行く日は気付けば10日前、1週間前、3日前、前日、そして当日の朝を迎えた。 「おかしい」 「何がだよ」 「俺の体感ではまだ10日くらい猶予があったはずなんだけどな」 「なんでお前が緊張してんだよ」 「なんでだろ?」 そうなのだ。 俺がおにーさんちに行くならまだしも、俺が俺の実家におにーさんを連れて行くのに俺の方が緊張してる。 これまでも彼女を連れて行ったことは普通にあったのに、こんなに緊張したことはなかった。まあ、実家に行くんだしやらかしてもあんたはもう!って母さんに呆れられて終わるだけだから良いんだけど。 「だって、初めてだもん」 「彼女くらい連れてったことあるだろ」 「そぉだけど、だってその時付き合ってた子を連れてっただけだもん。穂高さんは違うよ?ずっと一緒にいたい人だからなんか違うぅ」 なんか、重いのだ。 このくらい平気なんだけど、なんというか。 あんな風に、俺が笑ってるならと影で泣いて俺の前では笑う母さんだから反対はされない。母さんがそのスタイルで行く以上父さんも口を出したりはしない。 だけどだけどっ、そういう話じゃない。 相手の家に行くのも当然緊張するけど、連れて行くのも緊張する。 「吐きそう……」 「そういうのはその手を止めてから言え」 「………おかわり」 「ははっ、よく食うな」 「こんな時は食べるに限るっ」 せっせと朝ごはんを口に運び、ゆっくり食べれることを喜びながらおかわりをねだる。おにーさんが作ってくれるスープはほっこりあったまって、寒い朝には欠かせない。 というか、俺がこんな緊張してるのにどうしておにーさんはいつも通りなんだろう。 「やっぱり穂高さんって心臓強いね」 「これでも緊張してるわ」 「見えなぁい」 「そんな時こそいつもやってることしてると落ち着かねえ?」 「あー、なんとなくわかる」 言いたいことは分かる。 いつもと違うことがあるからこそ、いつもと同じように過ごすことでなんとなく落ち着かせようとするっていうか。それは分かるけど、あんまりにも顔に出なさすぎ。 おにーさんって笑ったり怒ったりって表情はちゃんと出るのにこういうところポーカーフェイスがうまい。 「っていうかなんてあそこにちょっとおかため服出てるの?」 「お前んちに行くからだろ」 「………俺普段着だったけど!?」 「お前はいいんだよ」 「何が?」 「俺はお前より年も上、仕事的にも結構ちゃんとしてるつもりだからTPOが大事だろ」 「俺が空気読めない子みたいになってる!!」 そう叫ぶとうるさいと言いながらおかわりのスープを置いてくれる。自分は少しちゃんとしていくとか意味わかんない。俺にはそのままでいいって普段着で行かせたくせにおかしい。微妙に納得できないまま、ずずっと温かいスープを飲んで気持ちを落ち着かせた。 少しお堅い服をちゃんと着たおにーさんは、なんというか見慣れない。普段から俺よりも落ち着いた服を着てるけど、こういうちょっとよそ行きみたいな服を着てるともっとちゃんとして見える。 そんなおにーさんと一緒に手土産を買って、電車に乗って約2時間。 生まれ育ったところにおにーさんと降り立った。 「帰ってきたー!」 「こっからどうやって行くんだ?」 「歩いて10分くらい。やだったらバスもあるよ。バス停からは1分も歩かないよ」 「10分くらい歩けるわ」 なら歩いて行こうとるんるんと慣れた道を歩く。 道中にある俺の通った中学校だったり、買い食いできる美味しいお店だったりをなんとなく紹介しながら歩いているとあっという間で、ちょっと恥ずかしくなりながらおにーさんにここだよと言う。 「でかいな」 「田舎だもん」 東京にこれがあったらそりゃ大きいってなるだろうけど、田舎じゃ普通。増築してるのが珍しいだけで、この辺じゃ大きいと言えるほど大きな家ではない。 慣れた家の門をこれまでになく緊張して開け、玄関を開けようとしたら中から人影が見えて先に玄関がばーんと開けられた。

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