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2-1.

穂高さんが俺の家に挨拶に来てくれた。 なぜか父さんにも母さんにも、こんなのでいいのか?だったりほんまにこんなんでええん?と言われて俺が憤慨して落ち込んでいたのは言うまでもない。 だけど、俺からも言わせてもらおう。 本当にこんなのでいいの? 「なにか手伝うよ」 「いいよ、ゲームでもしてろ」 「死に過ぎて萎えてきた」 そう言ってでろーんとソファにコントローラーと腕を投げ出す。 最近新作が出て、意気揚々と買ったゲーム。 これまでだって死んでなんぼのゲームだったのに、もはやクリアさせる気ないんじゃない?ってくらい難易度が上がっている。 そういう口コミを知りながらも相変わらずハードモードで突っ込む俺は当然のように死にまくっている。 好きではあるけど、たまに死に過ぎて萎える。 そんな感じでゲームをする俺。 年末年始の休みに向けて、技術部ではキリのいい所で研究を切り上げ始めたのでこの俺が定時上がりだ。そして、帰ってきた俺は洗濯物を取り込むことも、掃除をすることも、料理をすることもなく、いそいそとプレステの電源を入れ、テレビボードからコントローラーを取り出していた。 そうしてゲームをしているうちに穂高さんが帰ってきて、俺が脱いだ上着を自分のコートと一緒に掛けて、楽な服に着替え、洗濯物を畳み、料理を始めた。 文句を言ってもいいと思うよ。 早く帰ってきたなら洗濯物くらい畳め!とか、せめて自分が脱いだものくらいハンガーにかけろ!とか。 そんなこと言わない穂高さんは気にした様子も怒る様子もなく、それどころか今年はちゃんと電気つけてて偉いなと頭を撫でて褒めてくれた。 そんな日々に、本当に俺でいいのかなと俺自身が思ってしまうのも無理のないことだと思っている。 そんなことを考えている間に飯だぞと呼ばれて、プレステの電源を落としてダイニングの椅子に座る。 今日もメインから副菜まできちんと揃った美味しそうなご飯。 俺の胃袋の故郷だ。 いつも通り美味しいご飯をお腹いっぱい食べて、ふぅと一息ついていると穂高さんに真剣な声で呼ばれた。 「誠」 「ふえ、なに!?なんか嫌な話?」 「お前な。なんで真面目な話しようとすると嫌な話だと思うんだよ」 「つい?嫌な話じゃない?」 「ああ」 「なら聞く」 「アパートの更新なんだけどどうする?」 「へ?」 「ここ賃貸だからな」 「え、買うの?」 「それを考えてもいいかなって」 逃げるつもりなんかないけど、どんどん逃げ道を塞いで行くのは相変わらずだ。 まあそんな穂高さんの独占欲や囲い方は置いておいて、確かにずっと2人で生活するなら賃貸じゃなくてもって思う。同じくらいの広さの分譲でもなんの問題もない……。 「そうなった時って流石に俺だってローン払っていいよね?」 「なんでだよ」 「俺のセリフ!なんでそこでも払わせてくれないの!」 「お前に出させなくても問題ない」 くうぅっと唸ってみるもなんの効果もない。 確かに穂高さんは俺と生活して1年半の間、一度だって俺に家賃も生活費も負担させたことはない。旅行も完全に穂高さん持ち。それなのにまだ貯金する余裕があるほどに稼いでるって………聞いたことないけど、ここまでくると聞くのが怖くなってくるのが穂高さんの年収だ。 「誠に転勤とかあると買うとややこしくもあるんだけどな」 「大丈夫、通えないなら辞めようと思ってる」 「は?」 「俺、穂高さんと離れて生活するくらいならヒモの方がいい」 「ぶっ」 笑われたけど、これが今の本音だ。 穂高さんがいないのは無理、そんなのもう耐えれない。 それなら人がどれほど笑ったって、穂高さんがいいよと言ってくれるなら甘んじてヒモになる。 穂高さんは少し笑ってから、お前が家にいるのはいいなと言った。 この人は、俺が依存すればするほどに喜ぶ人。 自分なしじゃいられなくして、どんどん自分に落としていく人。 そう分かっているのに、俺はもがくこともせず落ちていくと思う。 この人の甘ったるい歪んだ愛情は、とても心地良くて離れれない。

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