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2-2.
年末、俺たち技術部にとっては信じられないくらい平和な日々を過ごし、最後の日は今年もお疲れ様でした、来年も頑張りましょうという声をかけてみんなして帰っていく。
「あの、伊藤さん」
「はい?」
「少しいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「………」
「あ、原田さんのことですか?」
「なんで分かるんですか!?」
いや、分かるよ。
俺に対しては押してダメでも押してみろって言うのに、女の子相手にはどうしたらいいか分かんないってほんと、変な人。
「女の子だっていろいろですよ」
「はい?」
「だけど原田さんは田中さんにとっては大当たりです」
「???」
「コミュ障発揮しても、支離滅裂なことをしても、田中さんだからで終わってくれます」
「酷くないですか……」
だって、仕方ない。
この人はコミュ障だし、頭はいいはずなのに意味不明だし。
いっとき原田さんは田中さんと気まずそうにしていたのに一体何があってもこうなってるのか、乙女心は複雑怪奇だ。
そんな会話をする技術部の事務室は静かだったのに、どんどんと響く足音に俺と田中さんが扉を見ていると阿川くんが血相を変えてやって来た。
「伊藤くんっ!」
「あ、待って。俺には阿川くん見えてないよ」
「なんでだよ!見えてるだろ!?」
「やだ、どうせミホちゃん絡みでしょ」
「さすが伊藤くん!」
そりゃ分かるよ。何度そんな感じで俺のところに来たと思ってんの。
俺とミホちゃんは2ヶ月に1度は会っているけど、特に困ってそうなこともなかったんだけどな。
ミホちゃんの我慢の限界はとうに越えて、好きなようにしてるはずだし。一体なにがあったんだろう。
というか、俺に問題集めんのやめて欲しい。
「ミホちゃんをカウンドダウンに誘ったら先約あるって言うんだよ!どういうこと!?」
「???」
聞いてもないのに困ったことを話す阿川くんに俺は首を傾げる。
ミホちゃんは絶対に浮気なんてしない。
独占欲が強くて、相手を束縛したいミホちゃんだから相手を不安にさせるなんてことはしないはず。
そもそもひとつの失恋を引きずって拗らせていたミホちゃんは、とっても一途だと思う。遊びは割り切れても、本気のことに関してそういう割り切りは絶対にしないはずだ。
「うーん、俺も約束してないよ?」
「まじか………」
仮に誘われても、元日は穂高さんの誕生日だから断る。
穂高さんも一緒にで、穂高さんが行くと言うなら一緒に行くけど。
「あっ」
「え、なに?」
「阿川くんは後でね。大型のところで待っててくれる?」
「わかった」
阿川くんは知ってるからいいけど、田中さんは俺が男の人と付き合っているとは知らない。わざわざ言うつもりもないから、阿川くんとこのまま話してうっかり変なこと言われたらたまったもんじゃない。
そうして技術部の事務室から出て行った阿川くんを見送り、田中さんに向き合う。
「付き合ってたってあんなものですよ」
「?」
「カップルなら一緒に過ごしそうなカウンドダウンに誘って断られる人もいるってことです」
「俺には無理です」
「メンタル弱すぎません?」
「伊藤さんは良いですよ、元カノでさえあんな美人で、人当たりも良くて頭も良くて、ちょっとバカっぽくてもやしみたいだけど今時だし」
「悪口が全然さり気なくないですよ」
バカでもやしって悪口だと思う。
まあ、バカに見えるとはよく言われてきたし、痩せてしまってひょろひょろなのは否定しないけど。
「俺の場合打たれなれてるだけです」
「?」
「男だけの5人きょうだいの末っ子。可愛がる限度をわからない兄に何度泣かされたか分かりません」
「………」
「俺は小さい頃から散々きょうだいに揉まれてきたし、そんな時から兄たちの失恋は見てきたんで、当たって砕けることも多々あるんだなと知ってるだけです」
うちのきょうだいは高嶺の花が好きだから。
そして、俺の知る限り別れる時は必ず振られる。
お付き合いする時は告白して、終わる時は絶対に振られてる俺のきょうだい。それは俺にも当てはまる。
これまで俺から告白して、いつも振られてきた。
穂高さんには告白したようなしてないような、よく分かんない感じだけど振らせたりは絶対しない。そんなの断固として拒否する。
「付き合ってからは振られることに怯えますか?大丈夫です、その時は仕方ないから俺がダメ出ししてあげます」
「凹んでるところさらに凹ませないで貰えますか………」
「それが必要なんですよ、なにがダメだったかとかちゃんと分かんなきゃおんなじこと繰り返しますよ」
「…………」
間違えたっていい。
だけど、同じことを繰り返しちゃいけない。
失敗から学ばないなら、それこそただのバカになってしまう。
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