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2-3.

「デートの予習させてもらえませんか」 「………はい?」 「シミュレーションしてたら少しは緊張しないと思うんです」 「バカなんですか」 「そりゃ、伊藤さんと比べると俺は頭悪いですけど」 「頭の話じゃないです」 頭の話ではない。 なんでデートに予習が必要なの? それこそ天気が違うだけで色々変わっちゃうから予習の意味はない。そして、緊張してガチガチのデートもそれはそれでいい思い出だと思う。 「原田さんはスマートな田中さんを期待してないと思いますよ」 「………」 「くだくだな初デートになっちゃったのを後悔したら、またリベンジさせてくださいってお願いしたら良くないですか」 「え?」 「終わりよければ全てよし、ってことでお疲れ様でした。きっと年明けは死ぬほど忙しいのでゆっくり休んでください」 良いお年を、とそくささと荷物を持って事務室から出る。 と言っても俺は帰るために原付に向かうのではなく、大型の事務室に向かう。 阿川くんにも良いお年をと言っても帰ってしまいたいけど、場合によってはこっちから逃げてもミホちゃんが来る可能性もある。俺の予想が正しければ、ミホちゃんが来るような事態ではないんだけど。 そうして今年最後になる大型の事務室にやってきて、椅子にずーんと座る阿川くんに声をかける。 「阿川くん」 「伊藤くんっ!!!」 「ミホちゃ「ミホちゃん他になんかいい遊び相手見つけたとか?それとも俺に言えないなんかあるとか!?美容師のミホちゃんでさえ連休の年末年始にろくに会えないっておかしくない!?」 俺が何かを言う前に捲し立てる阿川くんに俺の口が止まる。ついでに言えば思考回路も止まる。 見たわけでもないけど、きっとミホちゃんは穂高さんと変わらず重い。それは言葉の、そして行動の節々に感じるものでそれが分かんないのかな。 あぁ。でも阿川くんはいい意味で鈍かったっけ。 それともこれが恋は盲目ってこと? 「とりあえず、落ち着いたら?」 「これが落ち着けると思う?クリスマスでさえ年末は仕事忙しいんだよって言われて会えなかったのに!?」 「そりゃ美容師さんだもん、年末は忙しいだろうね」 「しかも年末の休み全然被んなかったし!今日ミホちゃん休みなのに予定あるって言われるし!」 「まずは落ち着こう」 「落ち着いてるから!」 いや、誰がどう見ても落ち着いてない。 かっかして早口で捲し立てて、冷静とは言い難い。 「1人でしたい用事くらいあるんじゃない?」 「なんかある?」 「……………俺にはない」 「俺にもない」 ドヤァって顔してるけど、それは俺や阿川くんの話であってミホちゃんはどうか分かんないよ。 俺が穂高さんに隠していることって、なんかあるかな。 言ってないことならあるけど、隠しているつもりはない。聞かれたら答えられる程度のことで、言っても言わなくても何の問題もない。 「別に隠さなくて良くない?」 「それはミホちゃんが決めることだよ。ミホちゃんが言いたくないこと言わせて、それで辛い顔させて楽しい?」 「そ、れは……」 楽しくないよなぁ。好きな人が辛そうな顔してるなんて絶対やだ。それが自分のせいだなんてすっごいやだ。 「ミホちゃんのこと疑ってる?」 「…………それはない」 「そんな迷い迷い言ったらミホちゃんにお仕置きされるよ」 「………」 「元旦がおにーさんの誕生日なんだ」 「は?」 「去年は朝早くからお祝いに来てくれたよ」 もしかしたら今年もそうするつもりなのかもしれない。 穂波ちゃんと年越しをして、朝になったら穂高さんのところにやってきて祝ってるのか集ってるのか分からない賑やかな日を過ごした。 「恋人よりきょうだい?」 「場合によるんじゃないかな。デートの約束入っててもにいちゃんが危篤って言われたら俺病院行くもん」 「誕生日だろ?」 「年に一度しかないよ」 「年越しもな!」 あ、それもそうか。 俺にとって年末年始は年を越すイベントより、穂高さんの誕生日のイベントの方が大きいものだから年越しの価値が下がってるのは否めない。

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