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2-5.

「ちょっと待って!兄貴いつも家に居たのになんで?」 「せっかく誠いんのにお前らに連れ回される俺の身にもなれ」 わぁい。 穂高さんは誕生日を俺と2人で過ごすことを選んでくれた。嬉しいとにやける顔で穂高さんにすりすりしていたら足を蹴られた。 「うっざ」 「ふふっ、今年は俺が貸し切りますっ」 「マジでうざい。殴っていい?」 「いつものことだけどもうすでに蹴ってるから!」 ミホちゃんにげしげしと蹴られて、俺はソファに正座して足を守る。 ミホちゃんは足から上を蹴ってくることはないから、不思議な光景でもこうするに限る。 「穂積も誠に当たってないでさっさと飯の準備しろ」 「はいはい、分かってるよ」 「ミホちゃんも一緒にご飯?」 「ああ」 「お鍋?」 「そう、よく分かったな」 一緒に食べるお鍋はすごく好きだ。 穂高さんは去年、俺がしいたけとくずきりが好きだと言ったのをきちんと覚えてくれていた。寒くなってきて鍋をした時、しいたけとくずきりがちゃんと入っていて嬉しかった。 2人でもなんだかんだ話しながら食べてしまう鍋は3人で食べるとあっという間で、気づいたら平らげていた。 ミホちゃんは兄貴ほんとにいないの?と最後まで確認していたけど、穂高さんは最後まで居ねえよと言うだけだった。 そうして少し寂しげなミホちゃんの背中を見送り、ようやく穂高さんと2人っきりになる。 「穂高さん、ほんとにどこ行くの?」 「横浜」 「へ?」 「都内と悩んだけど、横浜」 「なんでまた急に?」 「去年はまだ良いとしても、今年はちゃんと2人で過ごそうかなと思ってな」 「もおぉっ、ずるいっ!」 けど嬉しい。 ミホちゃんも穂波ちゃんも好きだけど、誕生日は2人っきりだとすごく嬉しい。 「はっ!?ちょっと待って!ケーキは!?」 「なんの心配だよ」 「お誕生日ケーキ!旅館にケーキって……売ってるかな」 「今回は旅館じゃなくてホテル」 「ホテル!!!」 ホテルかあ。 穂高さんとホテルってなんかイメージがない。 これまでずっと旅館に泊まってきたのに、ホテル? そう思う俺は、ホテル=修学旅行で泊まったところという程度の認識だった。 ホテルの部屋にもいろんなものがあると、俺は初めて気づくことになるのだった。 休みに入って数日。 今日は待ちに待った大晦日だ。 「誠」 「はぁい」 「用意したのか?」 「後でする〜」 出発は昼からだと聞いて、朝起きてからやると昨日言って、朝起きた俺は朝ご飯を食べた後でやると答えた。 大丈夫、1泊2日なんて最悪買えば良い。 それに服と下着があれば俺の場合それでいい。 シャンプーにも洗顔にもこだわりはないし、洗えればそれでいい。 「穂高さん手伝ってくれる?」 「手伝うようなことか?」 「手伝ってくれたらやる気が出るかもしれない」 「はあ、分かった。一緒にやるか」 「うんっ!」 望んだ通りの返事に、俺は持っていたコントローラーを投げ出して寝室に移動する。 俺用の小さめのボストンバッグを出して、必要そうなものを詰め込む。 「服と下着と……で大丈夫かな」 「なんでだよ。充電器は?」 「………必要」 そうして穂高さんに必要だけど俺が見落としていたものを教えてもらいながら、なんとか自分で用意をした。 きっと丁寧に入れたらバッグに余裕があるんだろうけど、俺の入れ方じゃパンパンで、歪な形のボストンバッグが完成していた。

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