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2-6.

昼過ぎのゆっくり出発をして、穂高さんは最初にホテルに入った。 んだけど、俺が思ってたホテルと全然違う! 「なにこれ!白!きらきら!天井たっか!!!」 「うるさい」 「穂高さん!外に噴水があるよ!」 「静かにしろ」 「うわぁあ!カフェのケーキ美味しそぉ」 「うるさい」 なんだこれ! 修学旅行で泊まったホテルと全然違う! 明るいし綺麗だし色々すごい。なにこれ、すごい! 受付なんてたったままじゃなくて優雅にソファに座ってさせてくれるし、出てきたお絞りは暖かくていい匂いがした。 これはもしかして部屋もすっごく綺麗なのでは?と期待がむくむく膨らむ。 「うわっ、ウェルカムドリンクって飲んでいいの?」 「ああ」 マジで、すごいなこれ。 「けど待て」 「ええっ!なんで!?」 「チェックインしたらあそこの中入れる。あそこだとデザートも食えるから」 「………やばい、すごい。どぉしよう、ホテルってこんななの?」 「?」 「俺、修学旅行で泊まったホテルかラブホくらいしか知らないから」 「………はあ」 そんな呆れないで。 だって本当にそうだもん。 修学旅行で泊まったホテルはもっとこう、古くてこんなに開けた感じじゃなかった。ラブホはそもそも受付に人が居ないから比べるまでもない。 そんなわけで、こんなホテルは初めて。 「もしかして部屋もいいお部屋だったりする?」 「まあそれなりに」 「………俺に払わせてくれないの?」 「悪いな、もう払ってる」 「いつの間に!?」 「部屋によって違うけど、俺が予約したのは予約金で支払う必要があったんだよ」 ずぅーんと落ち込んでみるけど、仕方ない。 仮にここで支払いだとしても払わせて貰えるとは思ってないけど。 そうして受付をする穂高さんを見守り、終わったらカフェの一角に入る。 ショーケースに並んでいたケーキよりも小振りだけど、小さくて可愛くてたくさん食べれそうなケーキが数種類並んでいる。 「どれ食べてもいいの?」 「ああ、チェックアウトするまで何度来ても良いし」 「贅沢だねえ」 「誕生日くらいいいだろ」 「いいと思うけど、自分で払ってちゃなんの意味もないと思うよ」 「家に居たら穂積と穂波に邪魔されるから、2人きりの時間買っただけだ」 ああもう、いつものことだけどやっぱりずるい。 そんなのでいいならいくらだってあげる。 俺が穂高さんにあげれるものも、してあげれることもあんまりないけど、俺の休みの日くらいいくらだってあげる。 そうして少し赤い顔を隠せないまま美味しいケーキを食べ尽くした。ものすごく種類が多いわけじゃないし、小振りだからペロリだ。 「ふあぁ、カフェオレも美味しぃ」 「確かに美味い」 あ、良かった。 俺の舌って優秀じゃないから大体なんでも美味しく感じるようになっている。雰囲気が美味しくさせてるのかと思ったりしたけど、穂高さんにとっても美味しいなら美味しいってことで間違いない。 そうしてフロント近くのカフェで無料サービスらしい飲み物やデザートを堪能し、ホテルの人に案内されて部屋に向かう。 そのエレベーターは止まることなくぐんぐん上り、ぐんぐん上る。 ほとんど天辺に近いところでようやく止まったエレベーターを降りると…… 「ここにも飲み物!?」 「ご自由にお使いくださいませ。フロントサービスでもお持ちしますので、フロント9番に申し付けていただいても構いません」 「あ、はい。ありがとうございます」 「当ホテルは館内着などはございませんので、平服を着ていただけるようお願い申し上げます」 「………?」 あ、ダメだ。 俺の情報処理能力が追いつかない。 そもそもへいふくってなに? 着るものの話してたけど、俺へいふくなんて持ってきてないんだけどな。 どうしよう。ちょっと落ち着いたらそれの調達に行かないとまずいかな。 そうしてホテルの人が話していることはほとんど入ってこないまま部屋に案内され、何かあればフロント9番にお尋ねくださいと頭を下げて出て行った。 そういえば、しれっと俺と穂高さんの荷物もその人が運んでくれていた。 俺には信じがたいホテルに、部屋についてもしばらく部屋の景色はなにも入ってこなかった。

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