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2-8.

こんな豪華なところで寛げない、とぼやいたはずだったのに、ソファに座った途端包み込むようなふかふかさに俺は一気に脱力した。 穂高さんも同じように寛いでいて、その膝を枕に借りる。 俺が体を楽に伸ばしても十分すぎるほどのソファは大きすぎると思う。 なんならベッドルームにあるベッドもデカすぎる。あれ何人寝れる?2人だと贅沢すぎない? 穂高さんはこういうところ節約しないからなあと見上げる。 「なに?」 「ちゅーして」 「はいはい」 一瞬おでこに降ってきたちゅーなんかじゃ足りない。 もっかいとねだると口にもちゅってしてくれたけど、2度目のもう1回は聞いてもらえなかった。 だけど、続きは夜なと頭を撫でられるとすっかり不満は帰っていくんだから、俺は単純だと思う。 暗くなってきた頃、穂高さんにそろそろ行くかと連れられてホテルを出る。帰宅時間を聞かれて、10時頃には戻りますと答えていた穂高さん。 目的地は分かんないけど、ご飯も俺のお楽しみもすごく楽しみだ。 るんるんと車に乗り、しばらく走ると和の雰囲気漂うお店の駐車場に車を停めた穂高さん。 今夜は和食かーと思いながらお店に入り、俺は戸惑う。 和の雰囲気漂う外観なのに、店の玄関を潜っても靴を脱ぐところがないし、なんなら少し見える席は椅子とテーブルだ。 そして、店員さんが運んでるのはジュウジュウと鉄板の上で焼かれるステーキ。 「ふぁあ、いい匂い」 「匂いだけでご飯食べれそう」 「ぶっ、っ、そんな貧乏させてねえよ」 俺の呟きに噴き出した穂高さんはそんなことを言う。 貧乏は全然してないけど、こんな贅沢はしなくてもいいんだけどなあ。 「こんな時くらいいいもん食ってもいいだろ」 「そぉだけどぉ。それなら俺にご馳走させて?」 「それは嫌」 うん、わかってる。 言ってみただけだ。 「普段外食する方じゃねえし、たまに食うならいいもんが良い」 「俺、ソースかけたら全部美味しいよ」 「もったいねえな。こういうの塩で食っても美味いよ」 「塩?」 「そう」 穂高さんが塩について教えてくれようとしたところで席にご案内しますと言われて、いったん話をやめる。 俺たちが通されたのもテーブルの席で、圧迫感は感じないけど周りの人の視線は気にならないよう工夫がされていていい。フォークやナイフのマナーに全く自信のない俺にはありがたい。 このお店は基本的にコースみたいで、俺はなにも分かんないから全部穂高さんにお任せした。 「穂高さん、塩がたくさん」 「だろ。ソースもあるっちゃあるけど、せっかくのいい肉なんだから俺はシンプルに塩で食うのが好き」 「どのお塩使うの?」 「今日ならこれかな」 ふむふむ。 よく分かんないけど、家にあるものより白っぽくない。 というか塩はそもそも白色でもない……って言うのは今は置いておこう。そんな話をしたところで穂高さんに呆れられるだけだし、なんの意味もない知識だ。 俺は穂高さんのおすすめをそのまま使おうと決意しながら、運ばれてきたものを食べていく。 ステーキを塩で食べたのは初めてだし、あんなにも分厚いステーキを食べたのは初めてだし、ミディアムレアなんていう焼き加減も初めてだし、たくさんの初めて尽くしだった。 もちろん、俺の感想はこれに限る。 「美味しかったぁ」 「だろ?」 すっかり満腹になったお腹をさすって、車に乗り込む。 穂高さんも運転席に座ったところで、穂高さんを呼ぶ。 「どうした?」 「ご馳走様でした。すっっっごく美味しかった」 「いい子」 「ん」 穂高さんの手が俺の頭に伸びる。 くしゃっと髪を混ぜるように撫でるその手は大きくて、とても心地よかった。

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