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2-15.
窓の端に見える花火から穂高さんに視線を移すと、すでに俺を見ていた穂高さんと目が合った。
「穂高さん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「大好きっ」
ぎゅうっと抱き締めると抱き上げられて、そっとベッドに寝かせてくれる。
「体は平気か?」
「乳首が痛い」
「それはいいから」
「………俺っていつもあんななの?」
「ん?ああ、そうだよ。可愛いだろ?」
「………控えめに言って死にたい」
「控えてなくね?」
「………生まれ変わりたい」
「バカは死んでも治らねえって言うだろ」
「体は変わるもん」
「俺は誠の体がバカで嬉しいけど?」
「くうぅっ、ずるいぃ」
ぼふぼふと柔らかい布団を叩いてみると穂高さんの手に捕まえられる。俺よりも大きな手にすっぽりと包まれ、大人しくなった俺の手を握り、静かにおやすみと言ってくれる。
俺はいつものように穂高さんの体にくっついて、おやすみと答える。穂高さんから回される腕が暖かくて心地良くて、俺はすぐに眠りについた。
翌朝、朝食に間に合うように7時半に合わせたアラームで起きる。穂高さんも隣に居て、寝起きだから少し眠たそう。昨日は普段より少し寝るの遅かったしね。
「おはよぉ」
「おはよう」
「朝ご飯なにかなぁ」
「1階のレストラン」
「楽しみっ」
館内着がないというか、2人して裸のままだからきちんと服を着る。昨日も見たから知ってるけど、キスマーク付けすぎ。
冬じゃなかったら隠れてないよと思いながらも文句は出てこない。
「誠行ける?」
「うん!」
ぴょんとベッドから降りて、穂高さんに付いていく。
朝食に向かう人も多い中、ホテルの従業員さんが食べ物の乗ったワゴンを押しているのを見て穂高さんの服を引っ張る。
「どうした?」
「なんでご飯運んでるの?」
「ここ、頼めば朝食をルームサービスに出来るんだよ」
「なんでそうしなかったの?」
「誠はビュッフェ形式の方が好きかなと思ったから」
「うぅっ、大好きっ!」
飛びつこうとしたらやっぱり避けられたし、暴れるなと注意もされたけどそんなの気にならない。ルームサービスだけならそれでいいけど、ビュッフェがあるならそっちの方が好き。たくさん食べれるし、好きなのを選べるから。
自分の誕生日でさえ俺が好きそうを考えてくれるこの人を大切に思わないなんて、そんなの無理だ。
エレベーターを降りて、1階につくとたくさんの人で賑わっている。穂高さんがレストランの受付で手続きをしてくれて、しばらくすると席に案内された。
ビュッフェからは少し遠いけど、日が差し込む窓側の席。全体的に白いこのホテルだから日が差し込むだけでとても明るく感じる。
「いい席だね」
「ラッキーだったな」
「取りに行っていい?」
「いいよ」
やった!と席を立つ。
ビュッフェは、俺が思っていたホテルの朝食バイキングと全然違った。そもそもこのホテル自体が俺のホテルという価値観を壊しにかかってきてるから仕方ないのかもしれないけど、これはホテルの朝食バイキングじゃなくてオシャレなレストランのビュッフェだ。
いつか彩綾と牧くんと行ったみたいな、ちょっとお高めのビュッフェだ。
ひとつひとつ小さな器に入って、綺麗に盛り付けられて。
一部の料理は目の前で作ってくれるし、和食も洋食も揃っている。
気になったものを組み合わせなんて考えずにお皿に取って、最後はシェフの人にオムレツを作ってもらう。中に入れる具は自分で選べたから全部入れてもらった。
トレーいっぱいにご飯を取ってきた俺に対して、穂高さんのトレーは落ち着いていて、和食を中心にご飯や煮物などが乗っている。
「いただきます!」
「いただきます」
山盛りに取ってきたつもりだったのに、美味しくてあっという間に平らげて、おかわりに2回ほど行って、ようやく落ち着いた。
最後まで手作りのワッフルにアイスとフルーツを乗せてお手軽デザートなんかも食べていたら、今日はもうおやつなしなと言われてこれは朝ご飯!と言い張った。
これをおやつにされたらもう甘いもの食べれない。
チェックアウト前に、俺はまたケーキを食べるつもり満々だ。
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