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2-16.
穂高さんの誕生日から数日が経ち、俺にとっては最後の休みになった。
穂高さんは俺より先に休みに入ったのに、俺より後に仕事が始まるのは俺が社畜だからなのか、穂高さんの会社がホワイト過ぎるからなのかはよく分からない。
お誕生日以降は特に外出することもなく、穂高さんとのんびりと過ごした。少しだけ家事の手伝いをしてみたり、穂高さんとゲームをしたり。
そんな日も今日で終わりかぁといじけてみる。
「誠、出掛ける?」
「どっちでもいいよぉ」
「初詣行ってないだろ?行かねえ?」
「行くっ!」
買い食い目当てだろと言われたけど、それだけじゃない。
おみくじを引きたいのと買い食いしたいのが半々だ。
もちろん、その前にしっかりと詣るつもりだ。
どうせどこに行っても混んでいるから、大人しく電車で行けるところに行こうかと決まった。
最寄り駅から数駅先で乗り換えて10分位。家から30分くらいで行ける距離のはず、なんだけど。
「ゔっ、ぅ、」
「大丈夫か?」
全然大丈夫じゃない。
むりむりと首を振っていると、穂高さんに少し引っ張られる。その瞬間は人の中を進みぐえぇっってなったけど、気づけばさっきよりも少し楽だ。
「?」
「ちょっとは楽だろ」
「穂高さんは?」
「慣れてる。毎朝こんなもんだ」
「…………」
俺には無理。
都会の満員電車って怖い。なにこれ、俺のこと圧死させようとしてない?気のせい?
俺の地元の満員電車ってもっと違ったよ。座席に座れなくて、ちょっとつり革よりも立つ人の方が多くて不安定だなぁってくらいが満員電車じゃなかったの………。
こんなのすし詰めどころの話じゃないよ。こんなの出口を塞がれたところてんだ。
そんな満員電車の中、俺は穂高さんのおかげでドアにもたれかかり、目の前は穂高さん。踏ん張ってくれてるのか、苦しさはない。
「やばい、こんなの穂高さんにされたらときめくね」
「安定のバカっぷりだな」
いやいや、こんなの女の子がされてみたいシチュエーションのひとつじゃないの?
満員電車で彼氏が守ってくれる〜みたいな。
そんなの何かで聞いたときはバカじゃんって思ってたけど、俺もバカだった。
普通にときめく。きゅんてする。
「もし引っ越すなら、穂高さんの職場の近くにする?」
「それは嫌」
「なんで?満員電車乗らなくていいよ?」
「お前の職場が遠くなるだろ。俺は電車使って30分以内で通えるならそれで良い」
「俺は原付じゃなきゃ帰ってこれなくなりそうだもんなぁ」
終電より遅いなんて、悲しいけどある。
それも月に何度かはある。
穂高さんはそんなの当然知ってるから、俺にとって電車の便がいいなんてことは考えてないと思う。その辺は乗り換えの都合もあるだろうから、穂高さんの都合でいい。
「2人で住む家探すって、大変だけど楽しくなりそうだね」
「そうだな。誠はどんな家がいい?」
「んー、寝室は一緒」
そう言って見上げると優しく笑う穂高さんがいる。これは当然のように通るお願いのようだ。
「すごく贅沢を言うなら、こたつが欲しいから小さめの和室とかあるといいな」
「リビングに小上がり的な?」
「そうそう」
別に小上がりじゃなくてもいいんだけど、和室にこたつを置きたい。そこに入ってぬくぬくしながらゲームをしたい。死に過ぎて萎えてきたら、寝転がって少し不貞寝したい。
神社の最寄り駅まで2人でどんな部屋がいいかなんて話してたらあっという間で、満員電車の苦しさなんて吹っ飛んでいた。
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