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2-18.

なんとなく納得できないおみくじを結びつけて、屋台でいちご飴とわたがしを買ってもらった。 食べ応えはないけど、お昼はどこかでちゃんと食べるからあえてこのチョイス。甘いもの2つになるけど、2つをキチンと守ってるから穂高さんは特になにも言わない。 「わたがし久しぶり」 「飴と飴ってすごい組み合わせだな」 「そんなに飴ちゃんしてないもん」 あーんとちぎったわたがしを口に放り込み、久しぶりの美味しさを楽しむ。すごくボリュームがあって見えるのに、口に入れると一瞬で溶けてなくなるからあっという間になくなった。 そうして初詣を終えて、帰り道でお昼ご飯を食べて家に帰った。 ソファに転がった俺はこれで休みも終わりか……と考え始めてダメになった。 明日から仕事、それを考えるだけで嫌で嫌で仕方ない。 むくりと起き上がり、ダイニングの椅子に腰掛けていた穂高さんに抱きつく。 「ぼだがざぁん」 「なに?仕事行きたくないって?」 「んっ、ゔんっ」 言いたいことがバレバレだった。 「どぉぜ忙じぃ」 「にしても泣き過ぎ」 仕方ない。 朝起きてから寝るまで、穂高さんと一緒に過ごせる年末年始が幸せすぎた。 穂高さんは家事をしていたりしても、時間があれば構ってくれたし、火を使ってない限り俺がそばに居てもなにも言わない。 そんな毎日が、朝から慌ただしくご飯をかき込み、仕事に追われて気づいたら日が暮れて、家に帰ってもご飯を食べて寝るだけになる。 そう思うと仕事始めは憂鬱だ。 「誠って学生の頃は夏休み終わるの嫌で泣いたタイプ?」 「ううん、むしろ夏休みが嫌だった」 「?」 「だって実験や研究出来なくなるもん。だから教授が実験の助手とか探してたら喜んで立候補してたよ」 「それが仕事になるとこれか」 それは、ちょっと違うかな。 仕事は好きな方だと思う。予算次第ではあるけど、可能性や見込みがあれば修正を加えられたりしながらでもやりたいことをやれる。学生の研究とは桁違いの予算があるから、研究自体はすごく楽しい。 基礎検査や品質検査にしても、やっぱりそれぞれ特性が違っていて何度してみても面白いし、営業さんが持ってきた新しいサンプルなんてわくわくする。 「1日48時間あれば、きっと俺は笑って仕事に行ける」 「お前の会社だと48時間あっても半分以上働くんじゃねえの?」 「………」 そんなバカな。 それなら24時間の方がマシだ。 そんな話をしているとなんとなく気が逸れて、俺は穂高さんに寝かしつけられるようにして休みが終わっていった。 嫌だ嫌だと言っててもやって来るのが朝、そして仕事。 俺の仕事始めの日まで休みの穂高さんに見送られて、とぼとぼと出勤した。 「あけましておめでとうこざいます」 「おはよう。あと、あけましておめでとう。年末年始はゆっくり出来た?」 「はい」 「俺は家族孝行出来たけど、いやあ、疲れた」 「どこに行ってたんですか?」 「子どもの希望でスキーに行ってたよ。年だね、筋肉痛が2日後に来た」 一瞬野田さんがおじいちゃんに見えたけど、頭を振って話を変える。 年始からばたつきそうですねと言うと、嫌になるよと言ってくれたからこの部屋を見て嫌になったのは俺だけではないようだ。 「おはようございます!………あ、私帰っていいですか」 「「ダメです」」 「え、なんですかこれ?なんか多くないですか?」 そうなのだ。俺の机にも、野田さんの机にも何かが乗っているけど大きめのものが2、3乗ってる程度。このくらいは予想の範囲だ。 鈴木さんの机はぱっと見なにも乗ってないけど、チャック付きの小さな袋に入った、小指の爪よりも小さな部品たちがいくつも乗っている。それこそざっと20くらいは乗ってると思う。 「………野田さん、誰か借りてもいいですか?私1人じゃ無理ですよ」 「そうだね、伊藤くんに俺のをやって貰えるなら俺が手伝うよ」 「伊藤くんっ、お願い!」 「野田さんのってなんですか?」 「基礎検査とX線、あと耐衝撃性。もう1つはそれに硬度と透過が入ってるよ」 全部できる。精密よりはマシだから、俺は大人しく受け入れる。そうして3人で振り分けていると田中さんが入ってきて、おはようございますと言いかけて固まる。 もちろん田中さんの机にもサンプルが乗っている。 俺や野田さんと変わらない量だし、俺は年末に年明けは忙しいと言ったはずだ。 そのすぐ後に内村さんがやって来て、休み明けの朝にも関わらず疲れ果てた顔でおはようございますと言った。 「野田さんすみません。鈴木さんも伊藤くんも田中くんもごめん」 そう切り出した内村さんをみんなで見る。 「昨日から妻がインフルで……保育園の送り迎えがあるから定時で帰ります」 そんな!と言いたいけど、病気じゃ仕方ない。 それよりも内村さんに移らないことを祈りたい。 定時で帰られるよりも、来れない方が大問題だ。 「今週いっぱいで大丈夫?」 「はい」 「くれぐれも移らないように気をつけてね」 「もちろんです」 野田さんも俺と同じことを考えるらしい。 流石にインフルじゃ、休むもんね。俺には移らない自信があるけど、少なくても1人くらいは移るだろう。特に田中さん。メンタル的にも打たれ弱いけどそういうのにも弱そう(勝手なイメージ)。 そうして思ったよりもバタバタしそうな年明けが始まった。

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