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2-19.
年始は過酷そうだな……と思ったら想像以上の過酷さを迎え、完全なるキャパシティオーバーを迎えた週末金曜日。
火曜日、出勤してきた内村さん。
水曜日、内村さんが発熱し、病院にてインフル確定。そして田中さんと鈴木さんが体調不良で早退。
木曜日、田中さんと鈴木さんがインフル確定し、野田さんは体調不良で休み。夕方の電話でインフルだったと連絡を受けた。
そして今日、金曜日。
5人でやっても終わらない仕事が1人で終わるはずもなく、俺は全てを諦めた。
というかあまりの技術部の状態に、社長の方から技術部は再来週の初めまでは開店休業だと言った。
俺は各々の研究の維持だけに努めて、検査は受け付けなくていいと言ってくれたし、営業さんにもその話が伝わっている。
それぞれが抱える研究は大体は把握しているため、それが無駄にならないようにひとつひとつこれまでのデータなんかを見ながら状態維持に努めた。
「伊藤くーん」
「はい、居ますけど検査は出来きませんよ?」
「いや、そうじゃなくてさ。体調は大丈夫?」
「はい、元気です」
営業さんはもちろん、通りかかる人が無茶すんなよとか、伊藤くんまで倒れるなよとか言ってくれる。技術部を震源地に本社内ではインフルエンザが流行っていて、各部署で数人は流行に乗っている。
そんな中、インフルの巣窟にいるはずの俺は至って健康だ。
これまでも俺は丈夫なことを自覚していたけど、きっと穂高さんが作ってくれる美味しいご飯のおかげで俺の丈夫さは増した。この過酷な環境に耐えるために俺はさらに強くなった(なりたくなかった)。
ただ、人が減って忙しくなったかと言えばそうでもない。
普段は関わらない研究のお世話をする大変さはあるけど、それに関しては大変さ以上に面白さが勝っている。
そして、開店休業という社長の英断のおかげで検査依頼として置かれていくものが増えていても捌く必要はない。
アレが見えている俺としては、みんなが復帰してからの日々が怖いというのが本音ではあるけど……。
そんなわけで、年始は忙しくなると思っていたし、実際水曜日までは忙しかった。
昨日は慣れない研究のお世話をするためにみんなの研究データを読んだらしていたから帰るのも遅くなったけど、今日は7時前には退社できるという奇跡が起きている。
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
「よく言われる言葉だけど、伊藤くんに言われる日が来るとは思わなかったな」
「俺もです。すみません、来週みんなが帰ってきたらちゃんと検査捌きます」
「インフル出てから貰ってる検査は出来るだけ日にち貰ってるから」
「ありがとうございます」
まだ残っていた営業さんに見送られる日が来るとは俺も思ってなかった。
そうして帰路に着いた俺に驚くのは、もちろんこの人も一緒だ。
「ただいまぁ」
「おかえり?」
今何時だ?と扉の奥から声が聞こえる。
そりゃそうだ、昨日までは夜な夜な帰宅してたのに、7時過ぎなんていう奇跡的な時間に帰ってきている。
こんなの土曜日か出張か年末でもない限りほぼない。
のんびりとリビングに向かっていたはずが、リビングの扉がどんと開いて穂高さんが駆け寄ってくる。
「慌ててどぉしたの?」
「お前までインフルか?どっか調子悪い?」
「ううん、元気!」
「?」
「技術部の検査は開店休業だから、俺は研究のお世話をしてるだけだよ。昨日は慣れなくて時間かかったけど、慣れたらこのくらい」
「本当に体調は大丈夫か?」
「うん、大丈夫!たとえ穂高さんがインフルでちゅーしたとしても俺には移らない!」
そんな自信がある。
ほんと無駄なくらい丈夫だから。
「ほんと流行ってるから気を付けろよ」
「穂高さんの会社にも出た?」
「ああ。この時期はまだいい、頼むから3月は耐えてくれ」
切実な穂高さんの声。
去年はインフルに肺炎で忙しさが尋常じゃなくて、ちょっとした喧嘩をしちゃったもんね。
お互いそれを思い出したのか、くだらないことて言い合ったなと笑った穂高さんに俺もそうだねと笑った。
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