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2-23.
最初に案内されたのは玄関。
すでに建物の中なのに玄関があるっていう違和感がすごいけど、玄関だ。
その取手には鍵穴なんかはなくて、前田さんがぴっと何かをかざすとガチャって音がして玄関は開いた。
「全室カードキーを採用しております。エントランス、エレベーターもこのカードキーを使います」
「なくしたらどうるんですか?」
「再発行には数週間かかりますので……失くされないようお気をつけ下さい」
しかも再発行にはマスターカードなる親カードにあるセキュリティ番号なんかも必要らしく、ややこしそうだ。
そうして中に入ると十分な大きさの靴入れ。これだけあれば2人分は余裕だし、玄関そのものも広い。
そのあとの作りは部屋のタイプによって違うらしいから、参考までにということらしいけど、十分参考になる。
このモデルルームは広い部屋を作っているようで、リビングに行くまでに3つの個室があった。
全体を白基調のもの、黒基調のもの、明るくポップでカラフルなものが用意されていて、部屋の雰囲気が全然違った。
「全然違うね」
「そうだな」
返事をしてくれる穂高さんはいつもの通りに見えて、多分そうじゃない。どことなく、なんとなくだけど、ピリピリしてる。
「穂高さんはどの部屋が好きだった?」
「白」
「俺も〜」
うーん、なんだろ。やっぱり変。
そう思ってもここで聞けるはずもなく、案内されるまま中を見ていく。
次はトイレ。
どうやら本体自体をいくつかのメーカーから選んだらもできるらしい。俺は、座った時にひゃっ!ってならないあったか便座ならなんでも良い。
バスタブも同じように好きなタイプと色を選べるし、他にも浴室内の細かな備品の数なんかもカスタム出来るらしい。
そうしてたくさんの部屋を見て回って、最後にやってきたリビング。
パンフレットにもあった畳コーナーに俺のテンションは上がる。
そして、畳コーナーの奥には小上がりの場合の見本なんかもあったから引き出し収納を引っ張ってみる。
「あ、軽い」
「片付けできそう?」
「たぶん」
「誠ってなんでも散らかすタイプじゃねえのに使うやつは出しっぱだもんな」
「だって使うもん」
ただ、一緒に暮らす上でお互い気持ちがいいっていうのはすごく大事。
俺は出しっぱでも気にならなくて、穂高さんはイライラする。
俺はたたむのはどうしても億劫で、穂高さんはぐちゃぐちゃなのは気になる。
そんな俺たちの間が大きなカゴにまとめて入れる、だ。
俺はそんなに面倒なことをするわけでもなく、穂高さんはとりあえず目に見えないからまあいいかと思える。
それが妥協案でうまくいっている。
少し我慢するけど、耐えれないほどじゃないし、自分だけじゃないこの感じがきっといい。
「俺、このヘリの無い畳好き」
「部屋も広く見えるしな」
「小上がりでもこんなのあるかな?」
俺たちじゃ分からないから営業の前田さんを見る。
少しハッとしたように見えたけど、すぐにございますと返事をくれた。
その時、前田さんが見ていたのは穂高さんだ。
聞いてる俺ではなく穂高さん。
きっと、俺が知らない昔に、この2人は会ったことがある。
そしてそれは、穂高さんがいい人の猫を被らずに冷たい態度でいれた関係だと思う。
なんだそっか。
そういうことか。
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