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「パントリーも見ようよ」 「そうだな」 「何に使いたいの?」 「乾物系、缶詰、意外と場所とるお前のおやつたち」 「ポテチの時って嵩張るよね」 「しかも基本的に大袋ばっか取ってくる」 「ひとつはひとつ」 ちょっと屁理屈かもしれないけど、個数は守ってる。 確かに俺のお菓子置き場ってたまに爆発してるんだよね。綺麗好きの穂高さんには嫌かもしれない(俺は何も気にならない)。 パントリーを覗き込んだあとは見たことのないキッチンに興奮が止まらない。 「見てみて!この位置にキッチンだとどこにいても穂高さんが見える!まさに死角なし!」 「アホか」 「おっしゃれ〜」 前田さんの説明によるとフルフラットキッチンなるものらしい。 今の家だとコンロの前には壁があるし、流しのところは少し囲うように高くなってるけどそれが無いキッチン。おかげでかなり開放的に見える。 俺みたいに出しっぱなしの人間にこれを使わせたらひどく散らかってるのがバレそうだけど、穂高さんが使うなら綺麗なまま使いそう。 「食洗機もあるよ」 「棚にしてもいいんだけどな」 「あ、そうなの」 穂高さんは手洗い嫌いじゃないっぽいもんなぁ。俺は入れちゃダメなものまで食洗機に入れたいタイプだからこれはこれで問題だけど。 やっぱりリビングやキッチンって、生活の拠点にもなるから夢が多い。 キッチンも離れたところに標準よりも高さが低いものと高いものが並んでいて、穂高さんは高いものの前に立ってこのくらいは欲しいななんて言っている。 「引き出しの色も選べるみたいだよ」 「何色が好き?」 「うーん………ピンク!」 「だと思った」 派手なピンク色じゃなくて、薄く淡いこのピンク色は好き。もっとくすんだピンクの方が好きだけど、キッチンにくすみカラーとかちょっと、清潔感がないかもしれない。 2人であれだこれだと楽しんでいると、じっと視線を感じる。 振り向くと見ているのは前田さんで、顔は笑ってるのに目は笑ってない。 穂高さんも、こんな顔はする。 すっごい笑顔なのに、目が笑ってないこの顔。 あーあ、俺また僻まれるのかなぁ。 なにがあったのか知んないけど、今は俺のだもんねとしらぷりを決め込む。 「そうだ、冷蔵庫も買い直して俺のアイス部屋作るとかどう?」 「却下。お前経済力はあるから食べた分買ってきて減ってないよとか言うんだろ」 「………」 「気づいてないと思ってた?」 「………なんでばれてたの」 「ゴミ置いてりゃ気づくわ」 「!!!」 「お前バカだろ」 アイス部屋を作るなんて名案を言ってみると、俺がこれまで隠れたつもりで食べていたのがバレていた。絶対バレてないと思ったのに。 バニラを食べたらバニラを補充したし、絶対にバレてないと思ったのに。食べたあと、アイスのカップを水にさらすんだけどそのまま忘れちゃってたのか。 そりゃバレる。 「食い過ぎてたら怒るつもりだけど、ひとつならいいよ」 「うううっ、穂高さんっ!」 嬉しくって飛びつこうとする俺は当然避けられたけど、あんまり気にしない。 そうしてモデルルームを見ながらあれはどうだこれはどうだと話しながら、かなり時間をかけてモデルルームを見終わった。 そして最後にら分譲自体は売り切るまでやっているけど内装のオーダーの受付に間に合うのはこの日までで、とか例えば契約者様にするプレゼントの案内だったりと色々な説明をしてもらった。 「穂高さん、良かったの?」 「なにが?」 「前田さんって人、知り合いでしょ」 「はあ。お前は気づくよな」 「なんとなく。すごい穂高さん見てたけど」 「知るか。俺に話すことはない」 「そっか」 ならいいんだけど。 穂高さんの知り合いや過去にまでどうこう言うつもりはない。穂高さんが話すと言うならそれはそれ、知らないって言うならそれもそれ。 俺にも元カノは何人かいるけど、残念なことに彩綾以外とは疎遠だ。その彩綾でさえ、あんなにも辛そうでさえなければ話そうとも思わなかったと思う。 「なんも聞かねえの?」 「うん。穂高さんがエッチ上手なのはよく知ってるもん」 「ぶぶっ」 噴き出して笑うけど、そうだもん。 エッチってAV見たってなんの勉強にもならない。人と触れ合って、初めて少しずつなんとか形になっていくと思う。 そんなエッチがすごく上手な穂高さんだから、お相手の1人や2人居て当然。 別にそんなのに目くじら立てるほど俺の心は狭くない。

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