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2-35.
朝からチョコを貰った金曜日。
お昼に食堂に行くと男性の方ひとりひとつと書かれて置かれたお菓子の詰め合わせもあった。俺もありがとうございますと誰も見張ってないおぼんに頭を下げてひとつ貰った。
そうして食堂でいつもの定食を食べて、ちょっと休憩。
こういう時にお菓子があるって良いんだよ、頭って糖分使うから途中で甘いものを食べると捗る気がしてる。
「伊藤くん、これいる?」
「あ、チロルチョコ」
「俺その味苦手なんだよ」
「そうなんだ?」
「中に入ってるのがなんか無理」
「ふぅん、甘くて美味しいのに」
阿川くんの詰め合わせの中に入っていたチロルチョコも貰って、俺はパクパクとチョコを食べる。
チロルチョコやキットカット、チョコチップのクッキーだったりと何種類か入っている。ちなみにチロルチョコはランダムみたいで、俺は最初から違うのが入ってたけど阿川くんが来た時にはもう食べちゃってた。
「ミホちゃんってくれると思う?」
「どうだろ?ミホちゃんが買って来てくれるお菓子って全部美味しいからハズレなしだね」
「なんでミホちゃんって伊藤くんに甘いんだよ、おかしくない?」
俺に甘い、のかなぁ。
そういうわけでもないと思う。
「ミホちゃんって好きな子ほどいじめたいタイプだから仕方ないんじゃない?」
強いてミホちゃんが俺に甘く見える理由を挙げるならこれだ。
好きな子ほどいじめたい。つまり俺はいじめたくなったらいじめても良いけど好き好んでいじめたいわけじゃない。
でも阿川くんは別。
困らせて困らせて、最後甘やかすのがきっとミホちゃん。いつだったから嫌がることほどやりたくなるなんて言ってたし。
「それでもなぁ。なんか違うくない?」
「自分1人だけ甘やかしいて欲しいって気持ちも分かる」
「だろ!?」
「でも、甘やかす相手ならたくさんいるのにいじめる相手は阿川くんしかいないって思えばどっちも貰える阿川くんって特別じゃない?」
まさに独り占めだ。
俺はそう思ってるから、穂高さんが外でどれだけいい顔しててもモヤモヤよりニマニマの方が大きい。この人は優しいけどそれだけじゃないんだぞ知らないだろって心の中でドヤァってしてる。
今はちょっと、穂高さんが意地悪なことを知ってる人が居たりしてるけど、その人は穂高さんがあんなにも甘ったるいなんて知らないだろうからモヤモヤするけどそれはそれだ。
「伊藤くんってほんと毎日幸せそうだな」
「人を悩みがない人みたいに言わないでくれる?」
「実際なさそう」
「あるから!」
「例えば?」
「今夜起きてる間に帰れるかな?とか」
「くだらん」
俺は悩みを人に言ったりはほとんどしない。
もし、もし今のモヤモヤを誰かに言うとしたら穂高さん以外にいない。
他の人から見た穂高さんの行動がどう見えるのかは分かんないけど、もしも不誠実に見えたとしたなら、俺がどれだけ大事にされてるかも知らずにそんな人やめとけとか怪しいとか言われたら我慢ならない。
確かに今の穂高さんの行動ってちょっと変だけど、そんな変な行動されてる俺よりも穂高さんの方が辛そうに見える時がある。
そんなのも知りもせずに好き勝手言われるなんてしたくないから、人に話そうとは思わない。
「そういう阿川くんの悩みは?」
「ミホちゃんチョコくれるかな?」
「それもなかなかにくだらないと思うよ」
十分すぎるほどにリア充な悩みだ。
「そんななら上げたらいいじゃん」
「貰いたくない?」
「貰っても嬉しいしあげても嬉しい」
「意味分からん」
「だってどっちにしたって本命じゃん」
貰う気持ちも、あげる気持ちもその人にだけ向く特別だからどっちだっていい。
むしろ何個貰ったってそこに気持ちがないなら、もっと言えば穂高さんからのものがないならどれだって一緒だ。
小腹の足しになって、頭の活動に役立ってくれるだけのもの。
「伊藤くんはチョコどうすんの?」
「今年は休みだから一緒に作りたいなあって思って手作りチョコキット買った!」
「………」
「?」
「………蹴っていい?」
「そんなとこミホちゃんに似てこなくていいと思うよ!」
もちろん、ミホちゃんみたいに言ったそばから足が出てるなんてことはないけど俺は即座に椅子に正座して、残りのお菓子を貪ることになった。
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