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2-36.
「ただいまぁ」
「おかえり」
夜も更けた10時過ぎに帰宅した俺は疲れ切っているけど、残念なことに俺は明日も仕事だ。
「あれ?そんなのあったっけ?」
「必要だって言われたから今日取ってきたんだよ」
「仕事帰りに?」
「いいや、今日外に出てたからそのついでに」
なるほど。
先週契約の時に必要だって言われたのかな。
役所の封筒があって、少し不思議に思った。
「役所の紙って独特で好き」
「なら見とけば?明日提出するから今日しか見れねえよ」
なら見とこーと思っていそいそと取り出したことを後悔するのに時間は掛からなかった。
「ふあっ!?納税証明!?」
「あと住民ひょ「イヤァァア!こんなの入ってるなら見るなって言って!」
いや!と叫んで俺は目を閉じて紙を机に叩きつける。
まだ見てない、セーフだ!
納税額と収入は比例してるんだから絶対に見ちゃいけない。
「別に見ても怒んねえよ」
「違うぅっ!穂高さんより職場近いのに、毎日穂高さんより早く出て遅く帰ってきる俺のお給料は分かってるの!これを見たら俺はもおっ、もおっ!どうしたらいいのっ!」
「………悪かった」
「そうだよ!こんなものここに置いとかないで!」
うわぁあん!と泣き崩れて俺は理不尽な八つ当たりをする。俺が社畜なのも、働いてる拘束時間の割にお給料がちょっと釣り合ってない気がするのも穂高さんは何も悪くない。それでも見たくないの。
「はぁ、危なかった!うっかり自滅するとこだった!」
1人叫んではふはふ息を整える俺をおかしそうに笑ってみてる穂高さん。人ごとって顔してるけどね!俺は真面目なんだよ!
社畜は社畜らしく上を見ずに現実だけを見ていないとやってられない。そりゃお給料の分、穂高さんはその資格がなきゃ出来ない大変な仕事をしてるんだろうけど!
「お前夜だっつーのに元気だな」
「くたくただよ」
精神的に。
見る前に気づいてよかった。
あれを見てたら取り返しつかなかった。
「あんなの見たら俺引きこもりになる」
「なってもいいけど?」
くううぅ。
もうほんとずるい。心の中で地団駄を踏んでいると、飯?風呂?と聞かれて俺はシャワーと答える。
お風呂はもっと時間のある時に浸かりたい。今日とかもうシャワーだけでいいから早く寝たい。
「お風呂に入りながらご飯食べれないかな」
「バカ言ってる暇あるならさっさと風呂入れ」
「はぁい」
その通りなので俺は脱衣室に向かう。服を脱ぎ始めてから何にも持って来てないことに気づいたけど、たぶん穂高さんが気づいて持って来てくれるからいっか。
そう思って何も言わずにシャワーを浴びたけど、俺がシャワーを終えて外に出るとやっぱり着替えとバスタオルが置かれていた。今日は申し訳ないなと思って、軽くドライヤーをかけてリビングに戻ると穂高さんは優しく笑った。
「???」
「ちゃんと頭乾かして偉いな」
俺、そんなに子どもじゃないよ。そりゃよく甘えてるけど、髪の毛くらい乾かせるもん。
それでも穂高さんはいい子って褒めてくれる。
「穂高さん、明日もモデルルーム行くの?」
「ああ。明日は壁紙とかのサンプル付きの冊子貰えるはずだから誠が帰って来たら一緒に見ような」
「うん」
寂しい、なあ。
穂高さんが嫌そうだから行かないと決めてるけど、2人で住む家なのになあ。
心の中で思ったはずなのに、それは少し顔に出ていたらしくて、尖っていたらしい唇にちゅってキスされて、ごめんなと言われたらやっぱり文句は出て来なかった。
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