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2-38.
俺のバレンタインは今年もとっても甘かった。
一緒に溶かすだけのチョコを作って食べて、穂高さんはそれとは別に俺にってチョコを用意してくれていてそれも美味しかった。
穂高さんは来年も一緒になんか作るか?と言ってくれて、俺はうんと頷いた。お互い買いに行ってもいいけど、一緒に作るのは楽しくて好きだ。
穂高さんの料理の手伝い(になってるのかは微妙だけど)をするのも好きだし、昨日みたいに腕がパンパンになりそうになりながら(チョコレートを溶かしても意外と重いことを初めて知った)お菓子を作るのも楽しかった。
甘い1日はあっという間だった。
月曜日になるとそんな甘い1日は夢のように消えて、俺は朝から慌ただしく出勤した。はずだった。
「伊藤くんんっ」
「うわあっ!待って!何度も言うけど阿川くんに抱きつかれても嬉しくない!」
「聞いてくれよ!」
「待って!仕事しに来てるの!」
「まだ定時前だろ!?」
「待ち伏せまでするとかストーカーじゃん!」
ぎゃあぎゃあと騒がしく言い合っていると、出勤するであろう内村さんがそんな俺たちを見かけて、なんか大変そうだから定時までに来れるなら野田さんには言っておくよと言って歩いていく。そんな気遣いいらないから俺を助けて欲しかったです。
「ほら、伊藤くんの上司もああ言ってくれたしさあどうぞ!」
そう言って阿川くんは自分の後ろにあった大型の事務室への扉に案内する。俺は月曜日の朝からぐったりと疲れる予感がした。
そうして大型の事務室に半ば連行され、俺はそこらへんにある椅子に座る。阿川くんも落ち着きなく椅子に座り、さっきまでの勢いを殺さずに続ける。
「なんでバレンタインに喧嘩しなきゃなんないんだよ!」
「いや、知らないし」
「伊藤くんは喧嘩とかしない?」
「あんまり相手にならない」
「………伊藤くんってそんな口達者なのか」
違う違う。
相手が大人なんだよ。喧嘩になりそうになっても穂高さんは先に冷める。そうして妥協案だったり、言いたくない本音を言ってくれるから俺も少し冷静になれる。
やっぱりあれかな。お兄ちゃんってやっぱりお兄ちゃんなんだからって言われたこともあるだろうから、喧嘩をしても少し冷静になれるのかな。
「なんで喧嘩したの?」
「ミホちゃんがチョコ用意してないし、俺が用意してなくてキレられた」
「別に2人とも男なんだからあげなくて良くない?」
「………」
いや、分かるよ。貰いたい気持ちも。
俺にとってもこれまでバレンタインなんて貰う側であって用意するのなんて穂高さんと付き合った去年からだし。
「贅沢病だね」
「は?」
「去年はそんなこと悩まなかったじゃん。貰えるかな?じゃなくて受け取ってくれるかな、会ってくれるかなって心配してたのに、今年は貰えなくて凹んで、怒ってる。貰えて当たり前の関係になったからこその悩みだよ」
「………」
「去年はみんなでビールバー行ったっけ」
「………」
去年は俺をミホちゃんホイホイに使ってた。
それが今年はそんなことしなくても2人は会っていて、阿川くんはミホちゃんの家にも行ける。恋人としての時間を過ごしていて、だからこそ貰えて当然なんて期待もある。
なんて贅沢な悩みだろう。
「ミホちゃんはあんなだから。用意してたとしても阿川くんと交換って感じじゃなきゃ渡せなかったと思うよ」
ミホちゃんが用意してたのかは分かんないけど、少なくても穂高さんみたいにはいって渡せるようなタイプじゃない。渡されて初めて、ついでに買っただけだからな!くらいの勢いで押し付けるのが精一杯だろう。
「………俺、ミホちゃんに酷いこと言ったかも知んない」
「ミホちゃんを傷つけるのは嫌だよ。どれだけ優しいか、阿川くんが知らないはずないよね」
傷つけたくない余りに自分が傷ついてきたミホちゃんだ。
ミホちゃんが阿川くんに昔のことを話したかどうかまでは知らないけど、聞いていなかったとしてもミホちゃんが優しいってことは分かっていると思う。
「ミホちゃんってやることと態度の割になんであんな優しいんだよ」
言った言葉って戻らないもんね。
たった一言が原因でもう無理ってなることだってある。
どれほど深かったはずの愛情だって一瞬で無になることもある。
「2人してごめんなさいすればいいと思うよ」
「話をしてくれる気がしない」
何を言ったのか分かんないけど、もしかして俺が思っている以上にひどい喧嘩をしたのかも知れないと、週始めの朝からブルーな気持ちになった。
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