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2-40.
残念過ぎるバレンタインの相談を聞いたせいでいつもよりも1時間くらい遅く退社した俺が帰宅するとダイニングの椅子に座ってお酒をあおり、穂高さんに愚痴を零すミホちゃんがいた。
多少飲んでもあんまり変化のないはずのミホちゃんの顔は真っ赤で、ダイニングの机はこれでもかと言うくらいの空き缶が乗っている。俺はこそっとキッチンにいる穂高さんのそばに行き、小さな声でただいまと言う。
「おかえり」
「ミホちゃん、どんだけ飲んだの?」
「俺が帰って来てすぐに来て、そん時に持ってた1ケースほぼ1人で空けてるな」
「………」
そんなに飲んでるの!?と驚きを越えて青くなる俺に気づいたミホちゃんはいつもの調子で俺に話しかける。
「あ、誠くんおかえり。冷蔵庫にお土産あるから食べていいよ」
「え、ほんと?」
「うん。その代わりビール1本取って」
「まだ飲むの!?」
「さっさと取れよ」
ふひゃっ!?
一気に温度が下がった!
俺はすぐさま冷蔵庫からビールを取り出してミホちゃんに献上した。
これは、こっちはこっちで相当機嫌が悪いな。
「誠、なんか知ってる?」
「うーん、とりあえずご飯!」
「穂積が来てたから手軽なので悪いな」
「いいよ、美味しいもんっ」
丼メニューも俺は好き。
穂高さんはそれでもお味噌汁とか付いてるからすごい。うちじゃ丼だったらそれしか出てこないのが基本だったからなぁ。
「けど、どこで食べよう」
「今日はソファ使え。ダイニングは危ねえだろ」
「ありがと」
良かった。
ダイニングだとミホちゃんからの空き缶攻撃に机の下でげしげし足を蹴られる予感しかしない。
そうしてソファでご飯を食べてから、ミホちゃんのお土産を漁る。相変わらずお土産のセンスがいいことで、美味しそうなカップケーキが入ってる。悩んだ末に花柄にコーティングされたカップケーキを選び取ってパクリと食べると、2つの声が重なった。
「立って食うな」
「それ、用意してたバレンタイン」
ほぼ同時に聞こえたけど、ミホちゃんの言葉の方がでかい。頭に石でも降ってきた気分。ゴーンってすごい衝撃が俺を襲った。
「ごほっ、え?俺宛、だったりはしないよね?」
「誠くんは兄貴から貰うだろ」
「これほんとなら阿川くんが食べるやつじゃないの!?」
「そうだよ、でももう要らないから食べといて」
「ちょっと!そんなことなら早く言ってよ!そしたら食べなかったのに!」
「うるさい、食えったら食え」
あぁ、ごめん阿川くん。
ほんとなら阿川くんが貰うはずだったらしいものを俺が食べちゃった。そういえば、このカップケーキ、どれもトッピングに何かしらチョコを使ってるもんなぁ。
味だけじゃなくて見た目もグーなそれだけど、あげる相手違うくない。
そんなことを考えていた俺は食べる手が止まっていて、そんな俺に近づいたミホちゃんは俺の口にカップケーキを突っ込んだ。
「んんっ!?ちょ、なにすっ」
「さっさと食べてくんない?」
ちょっと待って、阿川くんほんと何言ったの。
人の口に無理やりカップケーキ詰め込むなんて乱暴してるのに、ミホちゃんの顔は悲しげで寂しそうだ。
もちろん俺はそんなの見たら口に突っ込まれたケーキをもぐもぐと咀嚼するしかなかった。飲み物も与えず次から次に突っ込んでくるミホちゃんのせいで後半死にかけたけど、それでも全部食べた。
いつもなら何個にしろとか言うはずの穂高さんも、そんなミホちゃんの様子に苦い顔をしながらも何も言わなかった。
「ミホちゃん飲み過ぎだよ」
「いいんだよ、俺明日も休み」
「俺は仕事だよ」
「俺もな」
「明日には帰る」
「泊まる気か?」
「こんな酔っ払った俺を放り出す?」
「………はあ」
穂高さんにそれは出来ない。
見ず知らずの他人ならまだしも、ミホちゃんや穂波ちゃんが酔っ払ってるのに外に放ったままなんて穂高さんは絶対にしない。つまりこのため息でミホちゃんが泊まることを受け入れていた。
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