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2-41.
ミホちゃんが泊まることが決まって、俺とミホちゃんは順番にお風呂に入った。穂高さんは飲んだくれのミホちゃんを置いて入っていたらしく、俺が帰って来た時にはパジャマだった。
「誠くん」
「なぁに?」
「………なんでもない」
ぶすっとした様子で、でも何か言いたそうに俺を見る。
俺は阿川くんとミホちゃんが喧嘩をしてのは知ってるのけど、なにを言ってなにを言われたかとかは知らない。
「どんな喧嘩したのか分かんないけど、逃げちゃダメだよ」
「………」
「俺ね、これまでの彼女に謝りたいことってそれなんだよ」
「?」
「不安な時に怒りとしてぶつけられて、受け止めてあげるどころかまともに話さえ聞かなかったと思う。俺が思ってることもちゃんと言わなかった。最後の最後に傷つけてごめんねって、今は思うよ」
「まだ好きってこと?」
「人としてなら好きだし、幸せになって欲しいなと思うけどそうするのは俺じゃないよ。俺は幸せにするより幸せにされたい」
「真面目に話してんだよ」
「いたっ!!」
「あんまふざけると殴るよ」
「だからもう蹴ってるってば!!!」
俺は大真面目に言ってるはずなのに、ミホちゃんはダイニングの下で俺の足をげしげしと蹴る。手加減はされてるはずだけど、痛いものは痛い。
そして殴るという割に手じゃなくて足が出るってどういうこと。
メソメソとダイニングの机に伏せてみるとうざいとミホちゃんに切り捨てられて俺はさらにいじけた。
明日も仕事だというのに話を聞く俺に対してこの仕打ち、ひどい。
そうしているうちにクローゼットから布団を引っ張り出してきた穂高さんがリビングにやってきて、呆れた顔して何やってんだ?と俺たちに聞いた。
「穂高さん!ミホちゃんが蹴ってくる!」
「真面目に話してんのにふざけるからだろ」
「ふざけてないもん!」
「幸せにするよりされたいとかどんなバカだよくそったれ」
「誠がバカなことくらい知ってるだろ」
「ちょっと待って!?フォローの方向が違うと思う!」
「………誠がバカ言うくらい知ってるだろ?」
「違うぅっ!」
「兄貴までバカになるとかマジ無理なんだけど」
さっきまで攻撃的だったはずが、今はげんなりといった感じでミホちゃんが机の上に伸びている。
穂高さんはいつもこんなだよ、会話してるはずなのに微妙に噛み合わないことがある。特に疲れた時とか、エッチなことしてる時に多いけど。
「穂高さん、もしかして疲れてる?」
「いいや?」
「誠くん、頼むから兄貴までバカにしないでくれる?」
「俺のせいじゃなくない?」
「100パー誠くんのせいだろ」
「そんなぁ」
むちゃくちゃ言わないで。
俺はちゃんと会話は成り立ってるし噛み合ってると思うよ。穂高さんがこうなのは気づいた時にはそんなところがあったから断じて俺のせいではない、はず。
それからもミホちゃんはビールに口を付けながら愚痴を漏らし、そうしているうちに机に突っ伏して眠っていた。時計の針はとうに12時を回っていて、翌日仕事のある穂高さんにとっては珍しい夜更かしだ(俺に関しては不可抗力でこういう日も多々ある)。
それでも穂高さんはミホちゃんをラグの上に敷いた敷布団に寝かせ、きちんと布団を掛けてあげていたからいいお兄ちゃんだなあと思う。
俺らも寝るぞと言われて、ベッドに横になって穂高さんの体に抱きつく。
「どうした?」
「ミホちゃん見てたら、無性に抱きしめられたくなった」
なんでかな。穂高さんの温もりが恋しくなった。
もちろん穂高さんは抱きしめてくれる人だから、俺をその腕の中にすっぽりと収める。
このまま穂高さんに溶けてしまいたい気持ちと、別の体があるから触れ合える喜びとが混じり合う。
「誠はあんま怒んねえよな」
「不安にさせられてないもん」
「………」
「いいよ、言わなくても。その代わりちゃんと甘やかして大事にしてくれたらいいよ、安心できるから」
「悪い」
その言葉を聞いた俺は少しムッとする。後ろ暗いこともしてないのに謝るのは変だよ。
そりゃちょっと穂高さんの行動は謎だけど、やましいことしてないなら言えない分甘やかしてくれたらそれでいいよ。
「大事に思ってる。知られたくないことが多くてご「その言葉より他のがいいなぁ」
ごめんじゃないよ、俺が欲しいの。
抱きしめられたところから穂高さんを見上げるけど、近すぎて口元しか見えない。その口元は俺の言葉とほとんど同時に柔らかく綻んで、好きだと紡いで俺のおでこにちゅーをしてくれた。
うん、これがいいの。
そうしてあったかい穂高さんに擦り寄って、おやすみと穂高さんが言ってくれるとあっという間に夢の中に入っていった。
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