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2-43.
昼になるまでにみんなで手分けして田中さんがやるはずだった仕事を片付けて、まとめは野田さんがやってくれた。
田中さんは使い物にならなさうだ。
まあ、仕方ない。
完全に田中さんが悪い。
「伊藤さん」
「はい?」
「伊藤さんは無視されたことありますか」
「いえ、多分ないです」
「俺はあります。けど、今が1番キツイです」
「田中さんなりに原田さんに好意を持ってますからね。ただのクラスメイトと、自分が好意を持った相手なんて比べるまでもないと思います」
失礼な態度をとりたくないという気持ちは否定しない。
ただ、田中さんは少し(かなり)思いやりを間違ってる。そこが大問題なんだけど、本人は残念ながら言われるまでやらかしたと気づかないほどに人間関係はだめだめだ。
「押してダメでも押すんじゃないんですか?」
「伊藤さんって理系はよくても文系がダメな人ですか?それ、押してダメなら引いてみろっていうんですよ」
おい!昔自分がそう言ったのに今はそういうの!?
しかも俺を残念な子扱い!!!
「もぉ知らない、慰めようとしたのにもう知りません」
「え、あ、すみません?えっと、押してダメでも押してみたらいいんじゃないでしょうか、俺はちょっと引きますけど」
そうだね!ドン引きだよ!
その自分棚上げっぷりも酷いからな!
「せっかくのご好意を踏みにじってしまったんでしょうか」
「それに近いですね」
「………」
「誰かの雰囲気を借りていうなら、愛されても愛しても幸せってことでええんちゃう?ってことです」
「はい?」
「踏みにじってしまったなら、それを包めるくらい大きな男になってもう一度始めたらいいと思います」
「それ俺に食べろって言ってますか?大丈夫です、俺はやけ食いする派なんで」
「いつ俺が食欲の話しましたっけ?」
「?」
きょとんじゃないし!
あ、もしかして(器の)大きな男って言ったつもりなのに、(体が)大きな男だと思ってる?いやいやいや、年考えて。28でしたっけ?たぶん今から食べたところで横に伸びても縦は絶望的だと思います。
そして一般的にだけど、ごく平均的な標準体型が好まれると思います。
「俺、された嫌なことって忘られません」
「そうですね」
「………」
「けどメソメソするのはやめた方がいいですよ」
「?」
「俺は昨日今日で大型に顔を出してるんで彼女を見ましたけど、いつもと変わらない様子に見えました。強い子は、きっと凛とした綺麗な人になります」
「………」
強い人は、きっと綺麗になる。それは俺の持論だけど。
「謝り方を考える前に謝ってあげてください。時間が経つほど謝れなくなりますよ。下手くそでもなんでもいいから、嬉しかったけど受け取り方が分からなくて失礼をしたくなかったと、なんとも情けない理由を伝えてあげてください」
「励ましてるのか貶してるのかどっちですか」
「事実なんで貶してるつもりはないです」
「………」
ただ、謝ったところで原田さんがどうしたいのかは俺にはわからない。もういいと終わらせるかもしれないし、分かりましたと今回は許してくれるのかもしれないし、そのどちらでもないかもしれない。俺にはちょっと分からない複雑な女心だから、どうなるかの保証はしないけど。
「どうしたとしても別にいいんですけど、社会人です」
「?」
「せめて定時時間内くらいはまともに仕事してください」
「それが言いたかっただけじゃないですか!?」
そうです。その通りです。
ここの部署の人ってなんだかんだみんな優しいからね、明らかに様子が変なときは見守ってくれるけど仕事量がそれを許さない。そんなわけで伊藤くんいってらっしゃい!とさっき実験室から見送られてやってきたわけだ。
そんな理由で話をしていたとしても、嘘はついてないから気にしないでほしい。
その日は促されるままに定時で帰った田中さん。
話したのか話してないのかは知らないけど、翌日からは少しまともに働けるようになっていて技術部の中でみんなが安堵のため息をついたのだった。
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