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2-44.
騒がしいバレンタインがどう終わったのか、気になりつつも自ら首を突っ込まなかった俺は週末の土曜日、阿川くんにひきづられるように会社を出た。
「俺の仕事ぉ!」
「土曜だしどうせ定時だろ」
「そうだけど!なに、どうせミホちゃん関係でしょ?2人で解決して!」
「解決してるよ。けど、いつも巻き込むからってミホちゃんが誠くんと飲みに行くって言い出してさ」
「俺が飲まないこと知ってて!?」
「なんか迎えは呼んでやるとか言ってたから大丈夫なんじゃない?」
そぉいう問題じゃないんだけどな。
けどちゃんと話はしたんだ、よかった。
「話してくれるまでミホちゃんちに通ったから俺すっげぇ寝不足」
「………もしかして月曜日も?」
「もちろん。終電まで待っても帰ってこないし、電話かけても通じないし………」
だよね、月曜日はミホちゃんうちに泊まってたもん。
でも終電まで待つってすごいな。
俺はそんなんされたらちょっと怖いけど、ミホちゃんはそれでいいんだから人って不思議。
そうしてどうでもいい話を聞きながらひきづられているうちにお店に着いたらしく、お待たせと阿川くんがいつもより柔らかい声で言った。
「誠くん久しぶり」
「ミホちゃんいつも突然過ぎる」
「まあいいじゃん、兄貴には9時頃に迎えに来てって頼んでるから」
「おにーさん、よく了承したね」
「誠くんが酔い潰れてもその辺のベンチに転がしとくって言えば舌打ちされた」
だろうね。
穂高さんは俺が飲まされたまま外に放り出されてると知ってほっとけるタイプじゃない。そんなことになったらなんで飲むんだよと俺は怒られるし、ミホちゃんは飲ますんじゃねえよと怒られること間違いなしだ。
ごめんね穂高さん。せっかくの土曜日なのにお迎え頼むことになってごめんね。
そう心の中で謝りながらミホちゃんが予約したらしいお店に入る。分かってたけどバイキングとかじゃなくてちゃんとした(?)焼肉店。
換気もしっかりと行き届いてるのか煙ったさはないいいお店。案内された個室は掘りごたつになっていて、リラックスできそうだった。
「ご注文は?」
「生3つ」
他はあとでと言ったミホちゃん。
生3つ。俺の分が含まれている。
「誠くんそんな弱いの?」
「うん。好きなんだけど弱いんだよね」
「酔うとどうなんの?」
「寝る」
「………」
「去年の社員旅行とか結局寝てて俺が運んだんだよ。伊藤くんってめっちゃお兄ちゃんっ子なんだよ」
「はい?」
「はあ?」
「仕方なく運んであげたのに、おにーじゃないってさ。この歳になってお兄ちゃんに抱っこされてるとか信じらんないだろ」
「ぶぶっ」
噴き出したのはもちろんミホちゃんだ。
俺は無言。
そのおにーはにいちゃんのことじゃない。穂高さんのことだ。もう長いことにいちゃんに抱っこされた記憶なんてない。にいちゃんに抱っこしてやるぞなんて言われても間違いなく逃げる。
「雄大ってバカだな」
「なにが?」
「そのおにーって誠くんのお兄さんのことじゃなくて兄貴のことだと思うよ」
「………!!!そうなの!?」
「………」
「気づけよ」
「気づかないだろ!」
いや、気づくと思うよ。
俺が穂高さんをおにーさんと呼ぶこともあるって知ってるはずだし。こんな歳になった弟を抱き上げるなんてそうそうないだろう。
ん?あれ?こないだミホちゃんは机で寝ちゃって穂高さんが抱き上げて運んでたっけ?あれれ?
いや、まあいっか。
「ちょっと待って?伊藤くんとミホちゃんのお兄さんっていつから付き合ってんの?」
「話せば長いから割愛して、メニュー見よ」
「ちょっと!」
食いついてくる阿川くんにメニューを押し付けたのはミホちゃんで、なににする?と仲良さそうにメニューを覗き込んでいる。いや、いいんだよ。仲がいいことで良かったです。できるなら喧嘩をしても俺を巻き込まないで頂けるともっと嬉しいなぁ。
「お待たせしました!ご注文はお決まりですか」
机に生中3つを置いた店員さんが元気よく聞いてくれる。
ミホちゃんがテキパキと注文を通してくれた。
結構な量を言ってたけど、男3人で食べるとそのくらいぺろっと無くなるんだからお肉って不思議だ。
「誠くんいつもありがと」
「いいよ、ミホちゃんだし」
「今日は俺の奢り」
「やったあ!」
「俺が出すよ」
「俺が出すんだよ」
「いや、俺が!」
あれ、目の前に美味しそうなビールがあるしそれぞれ飲む気満々だったはずなのに何故かどっちがお会計持つかで揉め始めたぞ。あれ、なんかこんな光景前にも見たような……?
いや、まあいっか。
「とりあえず、かんぱーい!」
「「空気読めよ!」」
「2人こそだよ、こんな美味しそうなビールだよ?泡が消える前に飲もうよ」
なんとなく泡がある方がビールぅ!って感じじゃん。
そうして3人でビールに口を付けたけど、ほぼ一気飲みしたミホちゃんと半分ほどなくなった阿川くん。それに比べて俺は数口飲んだだけだ。
「誠くん飲んだ?」
「ミホちゃんみたいに飲んだら俺10分後に寝てる自信がある」
「弱すぎ」
「ミホちゃん、この前2日酔いしてたけど気をつけてね」
「明日休みだし平気」
そうしてミホちゃんはあっという間におかわりを頼んでいて、久しぶりにこの3人でのご飯が始まった。
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