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2-51.
そんな休みの後、1日だけ出勤して祝日があるその週始め。
俺が起きてキッチンに行くと、いつもならそこに穂高さんのスーツがかかっているはずなのにそれがない。
「おはよぉ」
「おはよう」
「穂高さん、私服出勤?」
「ちげえよ。休み」
「あれ?今日月曜だよね?祝日は明日じゃないの?」
「用事。マンションの契約、書類も審査も通ったから」
「そっか。こんなに早くできるんだぁ」
「3月に食い込みたくなかったんだよ」
「………ふふっ」
「相変わらず俺が忙しくなるのが嬉しそうだな」
ふふんっ、と笑って穂高さんを見る。
仕方ないじゃん、可愛いんだもん。
穂高さんの分かりにくくて分かりやすい甘え方を見れるなんてそんな時くらいだし。
「内装とかは決まったの?」
「大方。今日バーチャルで作ったモデルルームのURLもらえると思うから帰ってきたら見たらいいよ」
「楽しみっ!」
そうして話しているうちに朝ご飯が並び、掻き込んでいく。朝だけは掻き込んで食べてしまうのは許してほしい、時間がない。ご馳走様でした!と手を合わせて、身支度を整えて荷物を背負う。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい」
「ちゅーは?」
「はいはい」
言われると思った、と呆れてるけどしてくれるらしい。
俺の頬に触れて顔を上げ、ちゅっと触れたかと思えばすぐにまた触れて、俺の唇に舌が触れた。何も考えられなくて、意識せず唇を開いて、朝からするには濃すぎるちゅーをされた。
「ううっ、ばかっ!」
「ほんと単純」
「くうぅっ、もおっ、勃ったじゃん!」
「行かねえと遅刻すんぞ」
「ううっ、いってきます!」
「ははっ、いってらっしゃい」
そうして楽しそうな穂高さんに見送られて、俺は仕事に行った。
その日は俺の会社でも4連休にしようと休みをとってる人が多くて、社内は静かだった。営業さんも休んでいる人が多いから、急ぎで!と持ってこられる検査依頼がほとんどなかったのも大きい。
俺は珍しく7時半という早い時間(すでに残業中だけど)にタイムカードを押した。
凍える寒さの中原付に乗り、るんるんと家に帰るつもりだった。だけど、どうやら俺はまだ帰れそうにない。
なんでこの人がここに居るの。
ここ、穂高さんの家だよ。
なんであなたが居るの。
ねえ、前田さん。
「こんばんわ」
そう言って綺麗に笑った前田さん。
どう見ても作り笑い。
その作った笑顔は綺麗なのに、その目は俺に怒りをぶつけるようでもあった。
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