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「こんばんわ?」 「………やっぱり一緒に住んでるですね」 「今はモデルルームじゃないし、別に敬語使わなくていいですよ」 「単刀直入に言います」 「付き合ってるなら別れてください」 「やだ」 「は?」 「やだ。ってわけで、おやすみなさい」 「いや、待てよ!」 アパートに入ろうとする俺の手を掴んだのは当然前田さん。 なんで俺にいうの、めんどくさ。 「そもそも何がしたいんですか」 「………何も知らないんだ?」 俺の質問には答えず、バカにするように質問を返してくる前田さん。うん、何も知らないよ。でもバカにされるようなことでもない。 「俺とあの人の関係にも気づいてないんだ?」 「それは分かってますよ」 「………」 「あのね、俺を挑発したいならもっともっと揺さぶらなきゃダメですよ。俺、僻まれるのも嫉妬をぶつけられるのもすっごい慣れてるんです」 「性格わっる」 「好きに言ってください。俺にはもったいないって言いたいなら言っておきます。そんなの分かってるんだよばーか」 「は?」 「ってわけで、おやすみなさい」 前田さんにべーっと嫌な顔をして、前田さんが呆気にとられてるうちにアパートにそくささと入る。ガラス越しに一応ちょっとだけ頭を下げたけど、見ていたかは知らない。あーあ、嫌な思いした! 一体何がしたいの? 俺と穂高さんを別れさせたいのは分かったけどさー。 そんなの俺から別れさせるよりも穂高さんの気持ちを奪う方が正しい。傷につけ込むようなやり方は好きじゃない。吹っ切れるまで待つとかそんな男気があるようにも見えないし、ああいうタイプは好きじゃないーと頭を振りながら家に帰った。 「ただいまぁ」 「おかえり」 こんな日は穂高さんに癒されるに限る。 そう思ってリビングに駆け込んだままの勢いでソファに座る穂高さんにダイブする。勢いが強すぎて穂高さんはソファに倒れたけど、ソファだし痛くはない、たぶん。 「穂高さぁん」 「どうした?」 「俺の周りってストーカー多いの?」 「はあ?」 「アパートに着いたら前田さん居たぁ」 「はっ?」 「やんなっちゃうよなぁ。正攻法は通じないからって卑怯な手に出るとは!」 「何、お前そんな時でもバカ発揮すんの?」 穂高さんは呆れた、と言いたげな目をして俺を見る。 これぞ目は口ほどにものを言うってやつだなぁと国語の勉強を少しして、穂高さんににっこり笑いかける。 「俺から奪い取ってやる!くらいの人じゃなきゃやりがいはないよね」 「強え」 「ちょっとムカついたからべーってしてやったよ!」 ふんっと鼻を鳴らして穂高さんを見ると穂高さんはふっと笑った。その笑いは少しずつ大きくなって、穂高さんが笑いすぎて震えてる。 「お前、ほんといいわ」 「うん?」 なにが?って疑問には答えてくれなくて、俺を抱きしめる腕の力が強くなった。 「なんか言われた?」 「別れてくれってさぁ」 「他には?」 「あ、なにも知らないんだ?的なこと言われたけど挑発するなら安いよね。もっと煽ってくれなきゃ乗ってあげれそうにない」 「ぶぶっ」 「へ?」 穂高さんは堪らんと笑い始めて、抱きしめられてる俺は穂高さんから微かな振動を感じる。笑いすぎだよ! 「誠と喧嘩するってほんとやり辛そう」 「そぉかな」 「頭いい上にどっかズレてるからいつの間にかお前のペースになってそう」 「うーん、俺には分かんない」 自分とは喧嘩できないし。 でも、打たれ強いことだけは間違いないから穂高さんは俺が何か言われたんじゃ?って心配はしなくていい。

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