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2-55.
穂高さんはずびずびと泣く俺を引き剥がしたりせず、そっと頭を撫でてくれた。いつもと変わらないそのあったかい手に安心して、グリグリと穂高さんに顔を擦り付けてハッとする。
「びちょびちょだ」
「お前の涙と鼻水でな」
「………」
大惨事だ。
「いいよ、別に。もう慣れてる」
そんな俺のこと泣き虫みたいに言わないで。
これでも職場では泣いていない。全然受け取りたくない書類でもちゃんと受け取ってるし、製品化や特許に向けて忙しい中でも俺しか出来ない検査は納期から遅れることなくやっている。
「けど、わがまま言えばどっかで帰ってきてくれると助かる」
そう言って、穂高さんはさらに服がびちょびちょになることも気にせずに少し離れていた俺の背に手を回してそっと抱き寄せてぎゅうっと抱きしめてくれた。
俺に穂高さんが足りなかったように、穂高さんにも俺がきっと足りなかった。
「………おい」
「なぁに?」
「後で体重計な」
「へっ?」
「いつもより骨っぽい」
「感想!俺の体の感想がひどい!」
「乗れよ」
どうしよう。
朝はもちろん食べてる。昼は食堂で定食を食べた。夜は穂高さんが作ってくれていたご飯を残さず食べていた。
ただ、これで仕事が増えると俺は痩せるということはこれまでの穂高さんとの生活で学んでいる。
そして、穂高さんは50キロを切るとエッチはしないと言っている。
「やだ、乗らない。明日の夜乗る」
「いいから乗れ」
「やだやだ」
乗ったらエッチしてくんないじゃん、やだ。むり。
2週間も出さないなんて無理。無精に怯えながら寝るなんてしたくない。
「やだ、エッチ出来ないじゃん」
「痩せた自覚はあるんだな」
「………やだ!明日!」
「なら今夜なんもしねえ」
「なんでえぇ」
さっきとは全く違う意味で泣いた。
そんなのむりだよ。
「夢精したらどうしたらいいの!」
「ぶっ、パンツくらい洗ってやるから」
「やだぁぁあ」
「うるさい」
普段からパンツは洗ってもらってるけどそんなパンツは洗わなくていい!俺がちゃんと洗うから!それは流石に申し訳なさすぎる。
「やだぁ、むり。元気だよ?どこもしんどくないもん」
「食ってても痩せるほど仕事してんだから休めよ」
「やだっ、いっぱいご飯食べるから許して!」
「許すもなにも怒ってねえよ」
ああぁ、おかしい。
なんでこんな時は会話成り立つの?
疲れておかしくなった穂高さんってちょっと会話成り立たないところあったじゃん、なんで会話が成立してんの?しかも噛み合ってる!
むりむりと首を振るけど穂高さんは許してくれることはなく、乗れよとしか言わなかった。
こうなったらご飯をいっぱい食べてお茶も飲んですぐ体重計に乗ってやる。食べた分飲んだ分上増しされるからそれならワンチャン………
そう思って俺は食べた。穂高さんが呆れ返るほどに食べて飲んだ。ちょっと飲みすぎてお腹ちゃぷちゃぷする。
「今ジャンプしたらちゃぷんって聞こえそぉ」
「ははっ、飛んでみる?」
「むり。それより体重計……」
「はいはい。持ってきてやるから待っとけ」
穂高さんは体重計を取りにリビングから出て行った。俺は誰にか分かんないけどどうか50キロありますように!と祈った。心のこそから祈った。
「49.9!?待って、水飲む」
「バカやめろ」
「うぷっ、やっぱりむり……お腹苦しぃ」
むりだ、食べ過ぎ飲み過ぎで口が拒否してる。
「あんなに祈ったのに!?」
「真心じゃねえから届かなかったんじゃねえの?」
「人間欲だらけじゃん。お祈りだって欲じゃん、元気でいたい、お金持ちになりたい、そんなのだって欲望なのにどうして性欲はダメなの!」
「後で抜いてやるからそれで我慢しろ」
それは嫌だけど、出せないもの嫌で、夢精するのはもっと嫌。
悩んだ俺は返事もできずに、ソファに座り込んだのだった。
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