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2-56.

満腹すぎて動きたくない俺はそのままソファにぐったりと沈む。穂高さんは食い過ぎだなと笑いながら片付けをして、先風呂入るぞと言って浴室に向かった。 あんなにも食べたのになんで50キロに乗らないかな。食べたじゃん。お腹ちゃぷちゃぷパンパンになるまで食べたのに。一瞬、あの時だけでいいから50キロあればそれでよかったのにと自分の体にぶーぶー文句をこぼしても返事は返ってこない。 1人そうして過ごしているうちに思ったより時間が経っていたのか、穂高さんがリビングに戻ってきた。自分がお風呂に行く前となんら変わりない姿勢のままソファに沈む俺を見て呆れていたけど、俺なんてこんなもんだ。用事がなければ動かない。 「誠はなんでそんな忙しくなったんだ?」 「ずっとやってた試作の製品化の影響かな。特許出願とかもあって、解析にかけるのが多いし、特許申請には載せるけど製品情報に載せれないところとかも多くて。責任者が俺だから仕方ないんだけど……」 「相変わらず期待されてんな」 「ちょっと、重いよ。本当にすごいんだよ、今の社長が技術部にいた頃に始めた研究だから、10年以上前からいろんな人が改良を重ねてやってきた研究の集大成だよ。それをするのが俺って思うと、重い。すごく重いよ」 ひとつ間違えたらどうなるか、そんな不安に押しつぶされそうになる時も、ある。 あ、やばい、どうしよう。泣きそう。 「ぐすっ、」 「おい」 「な、泣いてないもんっ」 ソファの背もたれに顔を押し付けて涙を隠す。 やばい、思ってたより責任感に押しつぶされそうだったのかもしれない。 「ったく、甘えていいって」 「うわっ、ぁ」 ぐいっと手を引かれ、そのまま穂高さんに抱きしめられる。あたたかさに安心すると、どばぁっと涙が溢れてきて、穂高さんにしがみついてわんわん泣いた。 穂高さんは何も言わずに俺の背中を撫でてくれて、本当に安心した。 「びちょびちょだ」 「別にいいよ、慣れてる」 「なんかこの会話さっきもしたね?」 「したな」 うーん、今日の穂高さんのパジャマは黒だしそんなに目立たないけど触るとびちょびちょ。着てる穂高さんは冷たいんじゃないかな。 「俺の前で泣こうが喚こうが愚痴ろうが誰も知らねえんだから。な?」 「………ぅん」 促されるまま穂高さんの胸元に顔を寄せた。そのあたたかさにまたじんわりと涙が出てきそうになったけど、それは必死に耐えた。ぐずぐず言ってたから、バレていたとは思うけどそれはそれだ。 思う存分泣くと意外とスッキリするもので、俺はむくりと起き上がると穂高さんに向かって笑った。 「ありがとぉ」 「どういたしまして」 「俺、お風呂入ってくる。着替え取ってくるから穂高さんのパジャマも持ってくる?」 「そうだな、頼む」 そのびちょびちょはちょっと、ね。 そう思って寝室に俺の着替えと穂高さんの替えのパジャマを取りに行き、1度リビングに戻る。そして俺は呆れられた。 「なんで上だけなんだよ」 「濡れてるの上だけだよ」 「パジャマって上下セットだろ」 「別に違うくても着てたら同じじゃない?」 「………」 だって同じじゃん。どうせパジャマ、俺以外が見ることもない。それに穂高さんのパジャマはシンプルだから、俺が待ってきたのは無地のグレー。履いてるのは無地の黒。うん、なんの問題もない。 「着るもんにまで無頓着かよ」 「うちじゃみんなそうだよ?パジャマや部屋着はどうせ家族しか見ないからなんでもいいって」 そういえばこれに関してはにいちゃんたち誰も母さんに何も言わなかったな。実家では部屋着は楽に着れればなんでもいいやってくらいの感覚だったもん。 「だからシャツ1枚でも平気そうだったんだな」 「あれ楽だし涼しかった」 「………」 本当夏は快適だった。それと、トイレ行くのも楽だった。 そんな俺を穂高さんは疲れ果てた様子で分かったから風呂行ってこいと追い出されてしまった。

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