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2-57.
そうして始まった3月。
翌週になっても落ち着きは見せなかった。
必要な書類やデータを出して、必要に応じて解析をかけて。本社で足りないデータや出せないデータ、もう少し鮮明に写してきてなど色々な要望のせいでこの忙しい中どこかで大学に行かなきゃいけないしでてんてこ舞いだ。
2週目になっても相変わらずの帰宅時間だったけど、今週はなんとかも木曜日だけは9時半に帰ってきた。
穂高さんが忙しい云々じゃなくて、俺が穂高さん不足で死にそう。責任感の重い仕事はやっぱり辛くなることもあって、どうしても肩の荷を下ろしたくなる時があるというか。
そんな毎日のせいで、俺はすっかり忘れていた。
「誠、手」
「手?」
「違う、両手」
「?はい」
ようやくやってきたお休み、昼近くまで寝て、ご飯を食べてソファに転がるなんていうなんともひどいぐうたらぶりを見せつけているけど穂高さんに怒る様子はまるで無い。
言われた通り両手を出すと、穂高さんが軽い箱を俺の手に置いた。
「俺、誕生日7月だよ」
「ホワイトデー」
「!?!?!?」
そう言われて俺はばっとカレンダーの方を向く。今日は3月の第2日曜日……間違いなく3/14、ホワイトデーだ!
あれ?おかしいぞ!伊藤くん!伊藤さん!って阿川くんや田中さんがきてない!あれ、なんでだ!?
いやいや、ちょっと待て俺。そこを当てにするとかダメだから!
とブンブンと頭を振ってそんなバカなことを放り出す。
「俺、なんも用意してなぃ」
「バレンタインくれただろ」
「穂高さんもくれたもん」
「別に気にしねえよ」
「俺が気にするぅ」
けど貰えたのは嬉しいからそれを離さずに眺めてみる。
そんな俺の様子に噴き出した穂高さんは見れば?と笑いながら言うからいそいそと箱を開ける。
いやぁ流石だ、俺にラッピングなんて箱に入れるだけでいい。包み紙のないそれにちょっと感心する。
箱を開けるとおしゃれなネクタイが入っていた。穂高さんって俺がスーツを着るたびにネクタイ買うか?って聞いてくるもんなぁ。穂高さんみたいに毎日スーツならそれなりに必要かもしれないけど、残念ながら俺には1本あればいい。連続で必要だったとしても穂高さんにネクタイ貸してーって言えば済む話だしと、俺は断り続けていた。
箱に入っているのは紺色1色だけど、折柄がおしゃれなもの。あとワンポイントで刺繍も入ってる。
「誠のスーツならどれにでも合うだろ」
「………ありがとぉ」
「誠のそういう素直なとこ好きだよ」
「うぅっ」
くっそぉ、遊ばれてる。
仕方ないじゃん、俺は間違っても受け取り方がわかりませんって保留にするようなバカじゃない。
高そぉ!とも思うし、俺何にも用意してない!とも思うけど、やっぱり貰えると嬉しいから。
「もうちょっとしたら俺スーツいっぱい着るから活躍して貰うね」
「出張?」
「うん。各地の支社に行って営業さん集めて製品の説明会みたいなのしなきゃいけない」
本社の営業さんにはもう何度かしてるけど、支社で知ってるのは偉い人くらいだからね。かと言って営業さんを東京に集めるとなると交通費もさることながら日程の調整が果てしなく難しいとのことで俺1人動かす方向らしい。
「はあぁ、楽しかった研究の先は責任感で押しつぶされそうだなんて知らなかった」
「若いうちにいい経験出来たんじゃねえの?」
「それは、そうだよね。まだ2年目だからって社長や野田さんだけじゃなくて営業部の部長さんとかもたくさん助けてくれてる」
「そうやって若い時に経験積ませてるのはいい会社だと思うけどな」
「………残業がおかしいのは?」
そう聞けば当然穂高さんは黙った。
そして、今日のおやつ何がいい?とあからさまに話題を変えた。
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