340 / 438
2-59.
そのあと電車に揺られて家に帰る俺はぼんやりと景色を眺める。
働いて2年、かなり早くからこの試作をやらされて、膨大な情報量とサンプルに泣きそうになりながら、いろんな人に頼りながらやって来た。
それが終わると思うと、なんとも言えないなにかがある。
そんな気持ちと一緒に最寄駅にたどり着き、改札に向かっていると目の前から見慣れた人が歩いてくる。
「穂高さんっ!」
「お前も今帰り?」
「うん!もしかして同じ電車だった?」
「みたいだな」
俺は最後尾近くに乗っていて、穂高さんは真ん中らへんに乗っていたらしい。同じ電車でも乗る車両が違うと気付かないもんね。
「俺はスーパー寄るけど誠どうする?」
「俺も寄る!夜ご飯?」
「そう。なんか食いたいもんある?」
「卵」
「レパートリーの幅広すぎな」
「カルボナーラと卵サラダとかは?」
「なし」
「なら親子丼と卵スープ!」
「なし」
「ええっと、それなら」
「その卵の組み合わせ考えるならどれもなしだぞ」
リクエストの意味………としょんぼり落ち込みながら穂高さんと駅近くのスーパーに入る。残念なことに俺はそれほど料理が得意じゃないからここに並んでるものを見て美味しそう!と思えるのは果物と惣菜くらい。
「穂高さんイチゴ買って」
「いいよ」
「練乳ある?」
「ない。ポーションのやつ買えば?」
「おお!こんなのあるの?」
マジか、コーヒーに入れるミルクみたいなののおっきい版!もちろん中身は練乳。
それが5個くらい入って売ってるから割高なのは否めないけど、ごくたまにイチゴを食べるのに使うくらいならこれでもいいやって思う。
「チューブでもよかったのに」
「何にかけるんだよ」
「吸うの、美味しいよ」
穂高さんからの返事はないけど、顔は気持ち悪って感じだから穂高さん的には信じられないことらしい。
たまになら美味しい。流石に1日では無理だけど、数日かけて食べる(?)分には美味しいと思っている。
「で、卵はどうやって食いたい?」
「親子どーん」
答えるとポイッと鶏肉がカゴにいらっしゃってきて、そのあとも穂高さんはぽいぽいっと色々と入れていく。
「1日分?」
「2〜3日分。毎日買い物とかだるい」
「適当にとってるように見えるけど考えてるの?」
「いや、作るもの決めてねえときは使いやすいもん取って後から考える」
「俺がやると腐らせそう」
そんな俺に穂高さんは同意の意味で笑って、一通り店内を回って必要なものを買って家に帰った。
帰りが同じなんて約2年一緒に生活してる中で初めてだった。これは俺にしては早く帰って来ていて、穂高さんにしては遅く帰って来ているからこうなっただけでこんな偶然はそう簡単に起きない。
「穂高さん俺もなんかするよ」
「なら洗濯物直してくんね?」
「分かった!」
今日はまだ8時にもなってない時間に帰って来たし、穂高さんはご飯を作るっていう大事な使命がある。洗濯物を丁寧に畳んで、決まった場所に直していく。こういうのって俺にとっては手間だなと思うけど、このちょっとした手間のおかげで俺の快適な毎日があるんだと思うと穂高さんには感謝しか無い。
そのあとはふと気づいたからお風呂に栓をして蓋をしてからリビングに戻った。
ご飯ができるにはもう少しかかるらしいけど俺ができそうなことはなくなって、俺はソファに転がった。何もせずにぐうたらしてるわけじゃ無いよ、できることはやったから!と意味なく自分に言い聞かせて転がる。
「なんか変な気分だな」
「なにが?」
「仕事で疲れてるはずなのにさ」
「うん」
「誠がそこでぐうたらしてると安心する」
「普通の人ならイライラするって言うと思うよ」
「お前にイライラしてるとしたら全然体重が増えないことだ」
………そう言われると何も言えない俺はえへへと笑って誤魔化そうとしてみる。効果は、たぶんない。
ともだちにシェアしよう!