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2-61.
「こんばんわ」
「こんばんわ」
された挨拶に同じ言葉を返す。
俺を見る前田さんの目はやっぱりキツい。
「ほんとに一緒に住んでるんですか」
「はい?」
「3月中、休みの日ずっと待ってんのに今日しか来てない」
「あぁ、俺を待ちたいなら夜の9時から深夜1時頃まで張っててください。今日みたいに早く帰ってくるなんて奇跡なんで」
「なんでこんなのがいいんだよ」
そんな言葉が聞こえたけど、俺的にはそんなに俺を張ってたの?と怖い。その執着が怖い。俺に執着してるんじゃなくて穂高さんなのは分かってるけど、怖い。
「穂高さんには俺に会うなって言われてるんじゃないの?」
「納得できるわけないだろ!なんでお前なんかっ」
それそれ、懐かしい。
ここまで面と向かって言われたことはないけど大学の頃も、高校の頃も、中学の頃まで言われた言葉だ。
母さんはいつも俺が付き合う人に、ほんまにこんなんでいいん?と心配そうに聞いていたくらいだ。1番失礼なのは母さんだと俺は思ってる。
ってちょっと頭が母さんに埋まったけど、聞いてんのか!って声に現実に帰ってくる。
「別れろって言ってるだろ」
「奪ってやるくらい言ってくれなきゃ嫌です」
「っ!そういうところが嫌なんだよ!」
「俺もあなたのことは好きじゃないです」
「………」
「あんなに優しい人を、なんで傷つけるんですか」
「はっ、ははっ、ほんとなんも知らないんだ?」
乾いた笑いと、完全に見下した顔。
何を思ってそんなに愉快そうなのか分からないけど、俺は何も面白いことを言った覚えはない。
「あの人は冷たい目で俺を傷つけてる時が1番いい顔してるんだよ」
「そういう人なのに普通なあんたでいいわけないだろ」
ああ、この人と俺が見てる穂高さんは違うんだなと感じる。
穂高さんが冷たい目をすることも、酷いことをする人だということも俺は知ってる。
でも、傷つけたりはしない。むしろ傷を残すことを嫌がってると俺は思う。
「それ以外に言いたいことはありますか」
「お前はどうせそんなの耐えらんないんだからさっさと別れればいいだろ」
「それだけなら俺帰っていいですか?」
「なに、あの人に泣きつく気?」
「違いますよ。はっきり言うなら」
「つまんない」
こんな暇あるなら早く帰りたいと本気で思う。
そんな俺の目に、アパートから出てくる穂高さんが見える。
「穂高さんっ!」
「待てよ」
「ッ」
駆け寄ろうとした俺の腕を掴んで阻止する前田さん。
この人、ほんと意外と力が強い。普通に痛いんだけど。
「離せ」
「………」
「離せって言ってんの。聞こえねえの?」
冷たい声で穂高さんが言うと、俺の腕を掴んでいた手から力が抜けていく。
ほほぉ、この人もまたよく躾けられてる。
そう感心する俺をじっと見下ろした穂高さんは、肩から順に俺をペタペタ触っては何もされてねえ?と心配している。そしてその手がさっきまで掴まれていた腕に行くと、少し赤くなったそこを痛々しそうに見る。
「痛くないか?」
「平気だよ」
「悪ぃな」
穂高さんが謝ることなんてないのに。俺はその悪いの受け取り方が分かんないよ。
けど、俺以上に空気を読めてない人はやっぱり居る。
「あのっ、俺!」
「何してんの」
「俺、俺の方がいいです!何したっていいです、我慢なんてさせないです。あなたのやり方が、1番いいんです」
冷たい目をして、蔑んで、打っても良いし、縛ったって良い。何されたって、いいんですと言った前田さんは、きっと(間違いなく)変態さんだ。
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