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翌朝、アラームより早く起きたはずなのに穂高さんはもう隣に居なくて少し寂しい。けど、居なくて良かった気もする。 夢じゃないよなぁと、何も着てない自分を見下ろして、頬を引っ張ってみると当然痛かった。 未だに頭だけお花畑に置いてきた気分。 エッチした時のリップサービスであんなことを言う人じゃない。だからこそ、あれは穂高さんの普段は言わない本心だと思ってる。 思い出しただけであつくなりそうな顔を抑えて、俺はリビングに顔を出す。ひょっこりと扉から顔だけリビングに入るとキッチンに穂高さんの姿を確認する。 「何やってんの?」 「わっ、もぉ見つかった!」 「おはよう」 「………おはよぉ」 少し呆れ混じりの、優しい顔して言われるおはよう。 やばい、照れる。 「どうした?」 「ちょっと、思い出し照れ?」 「意味分かんねえよ。そんで思い出すな忘れろ」 「むり。嬉しかった」 嬉しすぎて涙が出るほど嬉しかった。 忘れたりは絶対しないけど、また言ってとは言わない。 あんなの、あんなの心臓に悪すぎる。 今でもいつもより早くどくどくと脈打ってしんどい。 「それより」 「うん?」 「体は平気か?」 「乳首が痛い」 「それはいいから」 「………いつの間にキスマークつけてたの」 「いつだろうな?」 くうぅ。 起きてる時に付けてくれてもいいのに。 昨日は乳首を散々いじめられて、未だに痛い。だけど、ここ以外を噛まれた記憶はなかったのに、目が覚めて顔を洗ったついでに鏡を見るとキスマークとうっすら歯形もあった。癖で、吸ったついでに噛もうとして俺が寝ていて遠慮したって感じ。 そんな朝から始まった4月。 穂高さんが付けていたテレビのおかげで今日から新社会人が増えることを知った。穂高さんには新しい社畜作んなよと言われたけど、それは俺が作るんじゃない。会社が作るのだ。 会社に着くと、いつもなら俺よりずっと後に出勤してるはずの事務の人が既に何人か来ていて、おはようございますと挨拶をした。 「今日早いですね」 「入社式の準備とかって全部事務の仕事だからね。総務は新入社員への説明資料でバッタバタ」 とくったりした様子で話している。 俺は全く関わったことがないけど、新しく人が入るからと仕事が増えている人もいた。もちろん一時的なものではあるらしいけど。 「今年は何人入るんですか?」 「本社は5人かな」 「楽しみです」 そっかぁ、5人入るんだ! 楽しみ。技術部には多分入ってこない。今現在空いてる机がないから、人が来たとしても座る場所もない。 今日のどこかで新入社員がやってくるだろうけど、見れるといいなぁなんて楽しみに思いながら今日の仕事が始まった。

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