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2-72.

翌日から新入社員たちはオリエンテーションをして、OJTで各部署に勉強に行っているはずだけど、基本的にX線室に篭っている俺は会うことがないまま休みになってしまった。 まあそんなに気にしていない。見かけたところで多少話をしなきゃ覚えられる自信もないし、俺自身が色々と動き回る方だからいつか会えるだろう。 「誠」 「はぁい」 「あれからあれに会ってないか?」 「あれが多すぎるぅ」 「真面目に答えろ」 「会ってないよ」 そんな頻繁に待ち伏せしないと思うけど、そうでもないらしい。 「金曜は居たぞ」 「金曜日………って俺何時に帰ってきたっけ?」 「確か12時前」 「そんな時間まで待ってたら逆に怖い。っていうか穂高さん何か話したの?」 「いや、何も。お前に知られたくなかったこと知られたからあれはもうどうでもいい」 「………」 淡々と言ってる姿からその言葉に嘘はないんだろうなと思うけど、あの日まるで縋るように俺を抱きしめていた穂高さんを思い出すと胸が痛い。 「穂高さん、辛くない?」 「ああ」 「なら平気。俺、あのくらいの言葉で悲しめるほど弱くないや」 「お前が強すぎんだよ」 「信じてるからだよ。穂高さんが俺のこと大事にしてくれてるって、手放したくないってのがちゃんと分かってるからだよ」 もし、一瞬でも不安になったなら別だったかも知れない。 だけど穂高さんは俺に知られたくないことがあると告げた上で、俺を手放したくないと甘やかしまくっていた。 ぎちぎちと、らしくないくらいきつく俺を抱きしめた腕の強さも忘れられない。 「なんかあれば言えよ」 「大丈夫、負ける気がしない」 「誠って喧嘩して負けたことあんの?」 「力でならいつも負けてきた」 「ほっせえもんな」 「そもそも喧嘩は避けてきたけど」 「へえ」 「母さんは友達と喧嘩しても、きょうだい喧嘩しても手を上げなければ何も言う人じゃなかったけど、喧嘩は勝っても負けても傷つくでって言ったのが忘れられなくて」 「誠のお母さんってほんと出来た人だな」 それは、今になればそう思う。 当時はただ、あの母さんが少ししんみりとした雰囲気で言ったから忘れられなかったけど、今はその言葉の意味が少しだけ分かる気がする。 「そもそも俺、そんなに腹立つことがなかった気がする」 「あん時は珍しく怒ってなかった?」 「うん」 穂高さんを傷つけるのは、許さない。 「俺、お前なんか釣り合わないとか別れろなんて腐るほど言われてきたんだぁ」 「それで良いのか?」 「けど、その矛先は俺にしか向いてなくて、俺の付き合ってた子が傷つけられることはなかった」 「だから平気だったし、俺がそう言われてるの見て怒ってくれるような子ばっかだった。俺は今、あの時彼女が怒った理由がよく分かる」 好きな人が傷つけられるのは、許せない。 俺は別に傷ついていたわけではないけど、そんなことを言われるのは許せなかったんだろうなって今になって分かった気がする。 「穂高さんにあんな辛そうな顔させるの、許せないなぁって思った」 「良いんだよ、俺は自業自得」 「それでも俺が嫌なの」 過去は過去。 やっちゃったものは仕方ない。けど、その仕方ないをほじくり返して抉るのは違う。 「穂高さんは俺が傷つけられたら嫌でしょ」 「当たり前だろ」 「俺もだよ。穂高さんは自業自得って言うけど、当時は同意の上だったなら今傷つけるのは違うと思うよ」 まあ、仮に穂高さんが無理やりそんなことをしていたとしてそれに今傷ついているなら、俺は今傷ついた穂高さんに寄り添いたいと思うのだ。

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