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「ただいま」 とそっと玄関に入る。 山口さんが俺の彼女(穂高さんのことなんだけど)について興味津々で聞いてくるから、適当に話していたつもりでもどこか思い出して恋しさを抱えた俺は明日からを連休にするため、今日の帰りは遅い。時計の針はとうに12時を回って、1時に近い。 金曜日だから起きていてくれることも多いけど、時間が時間だから今日は寝ているかもしれない。 起きていてくれると嬉しいけど、それはほんとただのわがままだから起きててとは絶対に言わないようにしている。 「………今日は寝ちゃってたか」 そりゃそうだよね、そんな日があったって別にいい。 明日と明後日は休みだからと自分を励まして、作ってくれていた夜ご飯を温めようとして、それに気づく。 『お疲れ様』 とそれだけ書かれたメモ用紙。 ああもおっ、こういうところ本当に好き、大好き。 明日は存分に甘えよう。 穂高さんのご飯は疲れた体に染み渡るし、最近食べるチェーン店のお持ち帰りなんかより美味しい。同じ作られたものでも、穂高さんが作ってくれるのは俺(と自分)のためだけに作ったものだから、やっぱりスパイスが効いている。 さっとシャワーを浴びて、申し訳程度に頭を乾かして静かに寝室に入る。広いベッドの片側に寄って眠る穂高さんを起こさないように、静かに布団に潜り込む。 このままなにも気にせず抱きつきたいのを我慢して、少しだけすり寄って眠った。 翌朝、起きるとやっぱり穂高さんはいなくて、俺は目をこすりながら起き上がってとぼとぼと歩く。 「おはよう」 「おはよぉ、抱っこぉ」 「仕事は?」 「休みにした」 伝えてなかったっけ…… それは申し訳ない。ん?あれ?ってことは俺が仕事行くのに間に合う時間に起きたってこと?もっと寝てたと思ったのになぁ。 ぼんやりと今何時だろうと思う俺をちゃんと抱っこしてくれる穂高さんは抱き上げた俺の体を触る。好きなだけ触ってくれていいんだけど。 「珍しいな」 「うん?」 「痩せてない」 「山口さんがくれる差し入れ食べてる」 「晩飯も残してないよな?」 「うん。穂高さんのご飯、美味しいもん。あとね、俺外で食べても美味しいなって思うけど、穂高さんがいるだけで美味しくなる気がする」 穂高さんと一緒に食べるご飯は格別だ。 山口さんと食べてもそれなりに美味しいものは、穂高さんと食べたらきっと笑っちゃうくらい美味しい。 「他所で餌付けされんなよ」 「ええ、そんなじゃないからっ」 「まあいいけど」 もしかしてあれって餌付けなの? それなら山口さんもっといいもの用意してよ。俺、普段もっといいもの食べてるもん。 値段が、じゃなくて愛情こもった料理………って山口さんが俺にご飯作って来ても不気味だから食べないな、うん。 「でもあんま懐くなよ」 そんな呟きと一緒に、穂高さんの前に無防備に晒されていたであろう首元に噛みつかれた。予想してなくてビクッと跳ねたけど、穂高さんがしっかり抱き込んでるせいで落とされることはなかった。 「ッ、穂高さんって」 「なに?」 「………俺のわがままには心広いのに、こういうのはほんとだめだね」 「知ってんだろ。気に喰わない」 「ぅッ、痛いッ」 まさか朝からガブガブ噛まれるとは思ってなかった。 だけど、俺を抱えるその腕は包み込むみたいにあったかくて、痛いのに逃げたいとは思わないんだから、不思議だ。

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