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朝噛まれて首元は気にすれば痛い気がするけど、そんなに気にならない。噛まれた場所と着てる服が悪くてチラッと見えるらしいけど、見えるほど俺のそばに立つのは穂高さんくらいだからと気にしないことにする。 そうしようと思わなくても、目の前に広がる世界がきらきら過ぎてそんなのすぐに忘れちゃうけど。 「うわぁあ、広っ!」 「ソファいっぱい!うわっ、ガラステーブルおしゃれ!」 「あ、こんなカーテンも好き」 入店してすぐに出迎えてくれるのはコンセプト違いのたくさんの部屋。シンプルな部屋から、これからの季節を意識したのか涼しげに感じる部屋、女の子らしい可愛い部屋から子ども部屋まで並んでる。 「うわぁ、すごい。住めそう」 「住むなよ」 俺の呟きにきちんと突っ込んでくれる穂高さん。そんな穂高さんに連れられてここに来た。食器からソファにベッドまで、たくさんのものが売られている家具屋さん。俺にとってなじみ深い家具屋さんと違って、多分いい値段するやつ。 「こたつどこかな。こんな時期でも売ってる?」 「こたつにも出来るやつなら売ってるだろ。それよりお前用の衣装ケースだろ」 「別にあれでいいって」 「割てんだから買い替えろ」 「お金出すの誰なの」 「俺」 その時点で俺が買い替えてないの分かってる? 家を出るなら強制退去の実家から出た時に持ってきた衣装ケース。俺がいつの頃から使ってたか分からないそれは最近ついに割れた。せっかくだから引っ越しの時に買い替えればいいかなと思っていたのに、穂高さんは指切ると危ないからさっさと買い替えろと言って聞かなかった。 「お前さ」 「うん?」 「俺と暮らして何年?」 「もうちょっとで2年!」 「その間に何回この会話したら気が済むわけ?」 「穂高さんが俺にお金を出させてくれるまで!」 「死ぬまでこれ聞かされんのかよ」 うんざり、といった様子の穂高さんと違って俺はにっこりと笑う。 死ぬまで、かぁ。 嬉しいなあ。 「なに笑ってんだよ」 「俺も死ぬまで穂高さんに同じこと言うね」 「………生意気」 そうして自分のうっかりに気づいた穂高さんは舌打ちをして俺から視線を逸らす。 穂高さんはこういう失言をたまにする。 揚げ足をとると言えば嫌な言い方になるけど、そういうつもりじゃなくて嬉しいのだ。俺はこれまでの付き合ってきた彼女と、明確な将来見たことはなかった。そんな未来を見せてくれる穂高さんのこと、すっごく好きだなぁと思う。 「ねえ穂高さん」 「なんだよ」 「機嫌悪っ」 「で、なんだよ」 別に皮肉じゃ無いってば!と穂高さんにとって言い訳じみたことを言ったりせず、俺はいつか感じた素朴な疑問を投げかける。 「もし俺が女の子だったらあの時飼ってくれた?」 「飼わない」 「へっ!?俺なのに!?」 「お前でも。お前俺の仕事知ってどう思った?」 「うわぁあ稼ぐぅ!それなのにホワイト!なんで!?って感じ?」 「女だと仕事を好きにることが多い」 「………」 「それこそ同僚じゃ笑顔で名刺渡してりゃデートくらい行けるだろって言ってるやつもいるくらいには」 「………それは極端じゃないかな?」 と思いたい。 けど実際は違うんだろうな。 そういうところもあったのかな。 この人は何せ仕事が良すぎる。それなのにホワイト(ここ大事)。 「穂高さんってなんで今の仕事したの?」 「給料がいい」 「もう少し夢のある理由が欲しかった」 「お前はなんで今の仕事してんの?」 「研究費が豊富!」 「意外とまともな理由だな」 「他に内定取れたところよりも資金が潤沢だったけど、真っ黒な落とし穴があった」 しょぼんとそういう俺に穂高さんは乾いた笑いを漏らして、軽く俺の頭を掻き混ぜてどこだろうな?と店内を見渡した。 今日の目的は俺の衣装ケース、新居用のこたつテーブル、それと適当にぶらぶら。 ただ、こういうお店っていろんなものがあってついつい目移りしてしまう。特にソファやクッションコーナーが目に入ると俺はついつい座り心地を確かめに行ってしまって穂高さんを呆れさせていた。

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