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「俺が我慢してるって言ったか?」 「言って、ないです」 「お前が勝手に決めんじゃねえよ」 暴君がひどい。 いや、関係性がひどいと言うべきなのかなぁ。 前田さんは穂高さんに対して絶対に敬語を使う。間違っても俺みたいにタメ口なんて聞いたりしない。 俺には噛み付いてくるくせに、穂高さんには食い下がることはしても逆らったりはしないっぽいし。 「穂高さん、手ぇ離して」 「いいのか?見えるぞ?」 「だいじょおぶ」 むしろそこになにがあるの。 前田さんが居るだけだよね? そんな見るだけで恐ろしいようなホラーなものが転がってるわけじゃないはず。 そうして明るくなった視界には、心配そうな穂高さんと俺に苛立ちを隠さない前田さんが見える。 この人の性癖かどうであってもいい。 だけど、 「穂高さんのこと、好きなんですか?」 「……」 「俺、前田さんのことかなり変態だなって思うけど、お互いが理解しあった上でのことなら好きにしたらいいです」 「?」 「穂高さんがしたくないこと、させないで下さい」 「なに言ってんの?それで盛り上がるのがこの人だろ」 そうだね。 きっとそれは、今でもそうだと思う。 穂高さんの性癖の根本はけして変わっていなくて、同じように優しいところだって変わっていない。 大丈夫かなと穂高さんを見ると、ちょっと痛そうで、困った顔して俺を見てた。大方、否定できなくてごめんってところだろうか。 「こんな顔してるのに?」 「は?」 「こんなに、申し訳なさそうで、困った顔してるのにそれがしたいの?」 「………なんで、そんな顔」 「俺もそうです」 「何が」 「そういうことしてる時、見てる余裕なんてないです」 エッチしてる時、穂高さんがどんな顔してるかなんてまじまじ見れたことはほとんどない。だけど、 「けど、そのあとで後悔してるかどうかは気づけると思います」 「俺がいいって言ってんのに……っ」 「でも穂高さんはしたくない」 エッチするなら同意の上 これは絶対条件だ。けして必要条件や十分条件なんかになりやしない。 「穂高さんは俺がしたくないことも汲んでくれます。その上でやりたいことはやる人だけど………少なくても前田さんみたいに、やって欲しいことだけを押しつけて、その傷を俺に背負わせるようなことはしないです」 「痛いのは俺だろっ」 「そうです。傷つけられて痛いのは突然です。けど、傷つけて、後悔して、痛む心を抱えられるのが穂高さんです。やっちゃったことは取り返しつかないけど、同じこと繰り返す必要ないです」 穂高さんはそういう優しさを最初から持っていた。 痛いことはしたいけど、傷を残さないのはきっとそういうこと。傷ができるなんて絶対に痛いことなんだけど、それを見てしまうと穂高さんの心がきっと耐えられない。 「言ってる意味わかんないんだけど」 「分からなくてもいいです。分かって欲しいとも思ってないです。けど、俺にも穂高さんはもったいない人だけど、優しい穂高さんを傷つけるあなたにはもっともっともったいない人です」 「そんなの、そんなの、分かってるっ」 そう言って俺を睨んで、一歩近づいた前田さん。 多少煽った気もしなくはないし、殴られるのかなぁと諦めていたけど思っていた痛みはやって来なかった。

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