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2-82.
あれれ?と思うこともない。
それまで俺の隣で見守っていた穂高さんが俺の前に立っただけだ。
「この手、何しようとしてんの」
「ッ、痛いです」
「質問に答えてねえよ」
「っ、ッ」
上げかけた前田さんの手を穂高さんが抑えてると思うけど、かなり力が込められてそうだ。俺に見えるのは前田さんの表情だけだけど、普通に痛そうだ。
まあ、そんななのに何故かうっとり穂高さんを見てるこの人にドン引きしてる俺がいるけど。
穂高さんはそれを見てどう思ってるのかは、この冷たくキツい声だけでなんとなく想像できる。こんな穂高さんだけが欲しいなんて、ちょっと意味わかんないなぁ。
「気持ち悪……」
「オブラート!オブラートに包んであげて!」
「ちょっと待って!なんでそれで嬉しそうなの!意味わかんない!」
気持ち悪いなんて言われていいの?俺ならやだよ!
俺の理解の範疇を越えた世界にいるらしい前田さんには俺のツッコミは聞こえてなそうだ。
穂高さんはそんな前田さんから手を離して、少ししてから俺を振り返る。
「過去の俺を疑う」
「うん?」
「こんなの気持ち悪いだけじゃね?」
「俺はいつ見てもドン引きだよ」
穂高さんは本当に過去の自分を疑ってるのか、信じられないという顔を隠さない。
「最初からこうな奴より、誠みたいに好きなように堕とす方がいいな」
「その結論はどうなの?」
「いいだろ、飼い殺すつもりだから問題ねえよ」
それなら問題がないけどぉ、とちょっとむくれる。
確かに俺は分かってても穂高さんの罠に落ちていくけど、そうしてるのは穂高さんじゃんとムッとする。そんな俺の頬をむにっと手で潰して変な顔と笑う穂高さんの顔を見てホッとする。
無理してなさそうで良かった。
「………そんなの、嫌いだったはずなのにな」
「へ?」
そんな呟きに前田さんに視線を戻す。
俺に噛み付く勢いもなければ、穂高さんに縋るような態度でもなく、淡々とした様子に俺は首を傾げる。
「穂高さんを好きじゃないのに、どうして穂高さんが欲しいんですか?」
「全部、疲れた」
うん?
「仕事はクソみたいに忙しくて、それなのに残業禁止だから昼なんて食べれないし。たまに休みになったってこうして勉強してこいって。こんなところ行ってこいとか言われて休みらしい休みじゃないし」
そうして語り出した前田さんに、俺はさっきまでのドン引きから一転。共感しか生まれない。
「分かる!タイムイズマネー!時は金なり!ほんとにそれ、時間がいかに大事か、仕事が忙しくなるほどに必要な癒し、安らぎ」
「そうなんだよ、それがない。家に帰って待ってんのは猫くらい。それも猫缶あげたら俺は用無し」
「そんな毎日の中でするセックスに依存して」
「気づけば体までぼろっぼろだった」
そりゃ、特定の相手とじゃなきゃそうもなるだろう。
しかもかなり激しめなプレイをお好みのまぞひすてぃっくな方っぽいからなぁ。疲れた体に打つ鞭はそりゃあ響くだろう。
「そんな時モデルルームに来たのがあんたとごし……この人」
あ、穂高さんご主人様とか呼ばれてたの?
別にその辺何も言うつもりないけど。
そういうのって言葉でもなんか燃えそう。
「そん時、この人ってセックスは上手いのに優しかったなと思った」
「あんたじゃ、この人満足させられないんじゃない?」
そうして穂高さんを見る前田さんを追って俺も穂高さんを見る。じいっと2人して穂高さんを見ていると穂高さんが頭を掻いて、答えなきゃなんねえ訳?と心底嫌そうに言った。
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